「ふつうの」展覧会ができるまで【上】
春の府中に「美しい絵」が勢ぞろい、その裏側をたっぷり
金子信久 府中市美術館学芸員(日本美術史)
「ふつう」は「平凡」じゃない

岸駒「猛虎図」
こんな展覧会を開催したいと敦賀市立博物館に申し出たのは、一昨年のこと。展覧会でお借りした作品の返却に上がった時のことである。大それた計画なので、まずはそれとなく打診してみようと思い、収蔵庫での作業が終わった時に、恐る恐る話してみたところ、前向きな感触を得ることができた。そこで、開催時期や準備の進め方などを練って、改めて敦賀を訪問し、具体的な提案をさせていただいた。
こんなふうにして、敦賀コレクションの展覧会の開催が決まったわけだが、タイトルが「敦賀市立博物館所蔵品展」では、いささか地味だ。ぜひ見てほしいものがあっての企画なのだから、それを端的に表す言葉はないものか、これにはずいぶん長い間苦心した。
アイディアが出てくるのを期待して、出版関係の人などに、「こんな感じの展覧会なんですけど……」と、いくつかの作品の図版を見てもらったりもした。けれども、見た瞬間に黙ってしまう。
見れば「平凡な絵だなあ」と顔に書いてある。パッと、派手な個性で人を惹きつける作品ではないからだろう。
ところがある時、スタッフの一人から「ふつうの系譜というのは、どうですか?」というアイディアが飛び出した。
私も一瞬でまいってしまって、即座に「奇想でなければ、ふつう……なんて素晴らしいタイトルだろう。何としてもこの案を通したい」と心に決めた。
「ふつう」は、もちろん「平凡」ということではない。きれいだったり楽しかったりするのが美術だとすれば、その本来の姿、つまり、ふつうのあり方がぎっしりと詰まっているのが、敦賀コレクションなのである。
タイトルが決まれば、次は作品選びである。府中市美術館で展示できるのは、前期と後期の展示替えをしても、せいぜい100点。300点以上のコレクションから、作品を絞らなければならない。そのリストアップは私がさせていただき、ようやくリストの原案ができたのが、昨年8月の末である。

浮田一蕙(うきた・いっけい)「隅田川図」
(次回に続く)