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「ふつうの」展覧会ができるまで【下】

敦賀から府中へ、「美しい絵」がやってくる

金子信久 府中市美術館学芸員(日本美術史)

5カ月前に東京へ、写真はすべて撮り下ろし

拡大土佐光貞「粟に鶉(うずら)図」

 開幕の5カ月前となる去年の10月には、展示するほぼ全作品を府中市美術館へ搬入することになった。図録の制作にあたって、全作品を新たに写真撮影するためである。

拡大絵画を運ぶ美術品専用トラック
 普通、展覧会では、作品の所蔵先から写真を拝借して印刷物に使わせていただくので、こんなに早く作品をお借りすることはない。しかし今回は、敦賀コレクションの作品を集めた図録を制作するということで、特別なご配慮をいただき、府中市美術館の中のスタジオで撮影することになったのである。そうして同じ条件のもとで撮影すれば、1冊の図録の中で、図版の色みがきれいに整う。

 10月中旬、府中市美術館から私ともう1人の学芸員が敦賀にうかがって、敦賀市立博物館の学芸員と一緒に、作品を一点ずつ広げ、細かい傷みの状態や取り扱う時に注意しなければならない危険なところなどを点検して、調書を作った。それが終わった作品は、美術品搬送の専門業者のスタッフが、作品の状態に合わせて丁寧に梱包していく。

 3日間でその作業を終え、4日目の朝、美術品専用トラックに積み込んで、府中市美術館へ向かった。敦賀を発って、山を越え、トラックの後部シートから琵琶湖の北の余呉湖(よごこ)を眺めながら、ずいぶん長いあいだ東京に「滞在」することになる、自分の後ろにのっているたくさんの作品のことを思った。そして、その晩、府中市美術館の収蔵庫に無事に搬入した。

拡大図録用の写真撮影の様子
拡大眼光鋭く撮影を見守る東京印書館のプリンティングディレクター、高柳昇さん

 撮影は、その翌週の2日間。梱包を解くだけでも大変な屛風を含めて、約90点の作品を2日で撮ろうというのは、少し強気の計画ではあったが、美術作品の撮影に熟練しているカメラマンのチームと、私たち美術館のスタッフで協力して、無事に行うことができた。

 また、図録などの印刷物を制作する印刷会社、東京印書館のスタッフも立ち会った。東京印書館の有名なプリンティングディレクター、高柳昇さんは、撮影の様子を後ろの方から睨(にら)むように見ながら、時折手にしたメモに、色みの情報を書き込んでいる。その時の印象や記録を生かして、実物に近い発色になるよう調整していくわけだ。

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筆者

金子信久

金子信久(かねこ・のぶひさ) 府中市美術館学芸員(日本美術史)

1962年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。専門は江戸時代絵画史。企画担当展覧会は「司馬江漢の絵画 西洋との接触、葛藤と確信」「亜欧堂田善の時代」「動物絵画の100年 1751-1850」「かわいい江戸絵画」「歌川国芳 21世紀の絵画力」「リアル 最大の奇抜」「へそまがり日本美術」ほか。著書は『もっと知りたい長沢蘆雪』(東京美術)、『めでる国芳ブック』(ねこ・おどろかす・どうぶつ、大福書林)、『日本美術全集』(14「若冲・応挙、みやこの奇想」・15「浮世絵と江戸の美術」、共著、小学館)、『たのしい日本美術 江戸かわいい動物』(講談社)など。

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