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「ふつうの」展覧会ができるまで【下】

敦賀から府中へ、「美しい絵」がやってくる

金子信久 府中市美術館学芸員(日本美術史)

ポスター、図録、音声ガイド、専門家の手を借りて

拡大長沢蘆雪(ろせつ)「紅葉狗子(くし)図」
 12月の終わりには、ポスターやちらしも完成した。あの小さな伊勢の姿を実物の何倍もある大きさに引き伸ばそうという、驚くようなデザインを考え出したのは、今回のデザイナー、島内泰弘さん。普通では考えつかないアイディアだし、あまりにも小さな部分を拡大しなければならないため、最初に撮影した画像では解像度が足りず、後日、拡大して使う部分だけを再撮影しなければならなかった。

 しかし、出来上がったものを見れば、その美しさに納得だし、作者光起の凄腕を見せつけられる、とても意味深いポスターに仕上がったと思う。

 1月中旬には、図録の解説文などの原稿も徐々に出来上がってきた。今回は、敦賀の学芸員のお力もお借りして、計6人の執筆者が書いている。文章の内容や調子、表記もさまざまだし、情報の塊のような本なので、内容の確認も必要である。編集者の久保恵子さんが各執筆者と念入りに調整をしながら、完成した文章をデザイナーへと渡し、レイアウトが進められていった。

 そして今、図録は校正の真っ最中。日本美術展の図録では見たことのない「仮フランス装」の表紙も楽しみである。どんなデザインかは、府中市美術館でぜひお手に取ってご覧いただきたい。

 開幕まで、ほかにも色々やることはある。会場の壁の色を考えたり、作品の並べ方を計画したり、また、展示室で読んでいただく解説の用意や、音声ガイドの原稿もある。ということで、これからの1カ月余りは、展覧会場に来てくださる方々のための空間づくりや、作品との接点を用意するという、とても大切な仕事が待っている。

 「奇想」があるなら「ふつう」もあります……奇抜なものの面白みは、そうではないもの、つまり誰の目にも美しいと映るものがあってこそ、というのが、今回の展覧会のポイントだ。

 若冲や蕭白(しょうはく)のユニークな造形の陰で「地味」「ありきたり」と片付けられがちな、しかし典雅な、やまと絵や狩野派、円山四条派の作品が、ずらりと並ぶ。「奇想ではないものって、何?」という興味から見ていただいてもいいし、「きれいなものが好き」という方には、とにかく無心で展示作品と心を通わせていただけたらと思う。

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筆者

金子信久

金子信久(かねこ・のぶひさ) 府中市美術館学芸員(日本美術史)

1962年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。専門は江戸時代絵画史。企画担当展覧会は「司馬江漢の絵画 西洋との接触、葛藤と確信」「亜欧堂田善の時代」「動物絵画の100年 1751-1850」「かわいい江戸絵画」「歌川国芳 21世紀の絵画力」「リアル 最大の奇抜」「へそまがり日本美術」ほか。著書は『もっと知りたい長沢蘆雪』(東京美術)、『めでる国芳ブック』(ねこ・おどろかす・どうぶつ、大福書林)、『日本美術全集』(14「若冲・応挙、みやこの奇想」・15「浮世絵と江戸の美術」、共著、小学館)、『たのしい日本美術 江戸かわいい動物』(講談社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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