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『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞4冠を取った4つの理由

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

 第92回アカデミー賞で韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞、監督賞、脚本賞、国際(長編)映画賞(去年までの外国語映画賞)を制覇した。すでに報じられた通り、最重要部門である作品賞を受賞した初めての外国語映画となったことが、大きな驚きを持って迎えられた。ましてや次に重要な監督賞なども同時受賞したのだから、その衝撃は計り知れない。ここではこの4冠が持つ意味について、さまざまな角度から分析してみたい。

 なぜこんな前例のない受賞が今年になって突然生まれたのか、この受賞はアカデミー賞にとって何を意味するのか、ネットフリックス(Netflix)製作作品はなぜ今年も取れなかったのか、ハリウッドやアメリカ映画界は変わるのか、なぜ今までどの部門の最終ノミネートにも残らなかった韓国映画が急浮上したのか、では今後は日本映画も作品賞を取れるのか等々を究明したい。

Featureflash Photo Agencyshutterstock拡大92回目のアカデミー賞は、新しい時代を迎えた Featureflash Photo Agency/Shutterstock.com

(1)非白人、女性、若手を次々アカデミーの会員に

 まず今回の4冠について述べる前に、映画に詳しくない「論座」読者のために簡単にカンヌなどの国際映画祭とアカデミー賞の違いについて簡単に書く。

 カンヌなどは、映画祭のディレクターがセクションごとに出品作品を選び、監督や俳優など国際審査員10名弱が映画祭に集まって作品を見て賞を選ぶ。ところがアカデミー賞はアメリカの映画芸術科学アカデミーの会員の投票で、米国で公開された新作から選ばれる。会員は基本的にアメリカの映画業界の監督、プロデューサー、脚本家、撮影監督、俳優などからなっており、ここで書いた通り(「『アーティスト』がアカデミー賞を制したわけ」)、2012年2月の時点で『ロサンジェルス・タイムス』のスクープによれば5765人のアカデミー賞会員(名簿は非公開)のうち94%が白人、男性は77%、平均年齢は62歳。

 このLAタイムスの記事は相当な反響を呼んだ。それもあって、フランス・ベルギー・アメリカ合作映画『アーティスト』が作品賞を始めとする5部門を制したわけだが、この映画はサイレントのために台詞がなかった。

 それからアカデミーの改革が始まった。特に2015年、16年と2年連続して俳優部門のノミネートが白人のみだったのが大きく、#OscarSoWhite(白すぎるオスカー)という運動が起きた。2017年秋からは#MeTooの動きもあった。あれやこれやでこの数年、非白人、女性、若手の会員を増やそうと、アメリカのみならず世界中の映画人にアカデミーへの入会の誘いが届いた。日本では新海誠、片渕須直、細田守、押井守、大友克洋、園子温、イッセー尾形らが誘われたという報道があった。

ロサンゼルスで建設が進むアカデミー映画博物館=米映画芸術科学アカデミー提供拡大2020年12月に開館する予定のアカデミー映画博物館(ロサンゼルス)=米映画芸術科学アカデミー提供

 毎年500人以上に入会の招待状を送ったおかげで今では会員は約9000人になり、新たに加わった世界各地の3000人の多くが作品賞ノミネートで唯一アメリカ映画でない『パラサイト』を支持したとしたら、今回のような結果も出るかもしれない。その兆しは、ネットフリックス製作のスペイン語映画『ROMA/ローマ』(アルフォンソ・キュアロン監督)が監督賞、外国語映画賞、撮影賞の3冠を飾った2019年の結果にすでに表れていた。

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筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。訳書に『魔術師メリエス――映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)、共著に『日本映画史叢書15 日本映画の誕生』(岩本憲児編、森話社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

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