メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

「ヘイト本」隆盛の時代、本を届ける思いがけない仕掛けと試み

堀 由紀子 編集者・KADOKAWA

本を魅力的に仕上げて届けるということ

 書籍の売り上げは、約40年前の1975年と比べて、売上冊数はほぼ変わらないにもかかわらず、刊行点数は3倍にも増えていると本書では述べられている。年間10万点もの新刊書籍(コミックやムックを含む)が出るなかで、ある一冊を読者に届けるのは至難の業だ。

拡大『私は本屋が好きでした』の著者・永江朗さん

 そんな出版状況の中で、何とか読者に本を届けようとする、朝日出版社さんのメルマガが好きだ(話が少し変わります)。

 2週間に一度の頻度で、結構長文のメールが届く。書き手は営業、編集といくつかのセクションの担当2、3人で、テーマは自由に書いてある。最近刊行した本の魅力を伝えるのはもちろんだが、作っている途中経過や著者とのやりとりなど、いつも興味深く、しばしば購入してしまう。

 一方で、「DJ KOOのインスタをフォローしていますか?」と始まって、そのインスタがいかに素晴らしいかを切々と語る人や、AAA(トリプル・エー/アイドルグループです)が解散してしまうことの悲劇を思い入れたっぷりに伝える人もいた。

 DJ KOOもAAAも朝日出版社の本とはあまりというか、まったく関係ないのだけど、こういう人たちが作っているんだ、営業しているんだと、一方的に親近感を覚えて、毎回感動する。毎回読ませるし、なにより楽しい。

 そのメルマガの1月に配信された号では、「効果のある/なしの境界線―知っているようでまだまだ知らない紙とオフセット印刷の4つのこと―」展について書かれていた。藤原印刷さんと平和紙業さんによる共同開催のイベントで、短いレポートだったがそれがまた魅力的で、読んですぐの週末に行ってみた。

 今回取り上げられたのは「残念な金、残念な白、びみょうなニス、なぞの奥行」の4種類の印刷。金や白、ニス、奥行きの4つについて、どの紙でどの印刷をすると効果がよく出るのかが、実際の紙に刷って展示されていた。

 たとえば、金色を刷ったのに、紙によっては茶色っぽくなることもあれば、逆にピカピカのいかにも金、という感じになったりする。ニス加工をしたときに効果的にでる紙もあれば、加工したのかしていないのか、わからない(効果が出ない)紙もある。実際に印刷したサンプルを持ち帰られるというお土産付きで、満足度満点だった。

「効果のある/なしの境界線 ―知っているようでまだまだ知らない紙とオフセット印刷の4つのこと―」展拡大「効果のある/なしの境界線―知っているようでまだまだ知らない紙とオフセット印刷の4つのこと―」展=平和紙業ペーパーボイス東京(東京都中央区新川) 写真提供・藤原印刷
展で、お土産でもらった印刷見本=筆者撮影拡大「効果のある/なしの境界線」展で、お土産でもらった印刷見本=筆者撮影

 寒い雨の日だったが、小ぢんまりした会場はお客さんでいっぱいだった。立ち話を聞けば、出版関係者だけでなく、美大の学生さんや本が好きで、という人もいるようだった。この展覧会なども、より効果的な印刷を行うことで、本を魅力的に仕上げて、一人でも多くの読者に届けることにつながっていく。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

堀 由紀子

堀 由紀子(ほり・ゆきこ) 編集者・KADOKAWA

1975年、山梨県生まれ。1999年より角川書店で、主婦向けのテレビ誌「しってる?」、スポーツ誌「SPORT Yeah!」、都市情報誌「横浜ウォーカー」の編集に携わる。2012年より書籍編集に。担当した書籍は、柳田国男復刊シリーズ(角川ソフィア文庫)、黒田勝弘『隣国への足跡』、望月衣塑子『武器輸出と日本企業』、室井尚『文系学部解体』、柴田一成『とんでもなくおもしろい宇宙』など。ハードボイルド小説と自然科学系の本が好き。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです