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【ヅカナビ】月組御園座公演『赤と黒』

「芝居の月組」が見せる名作の世界で、珠城ジュリアンが新鮮に息づく

中本千晶 演劇ジャーナリスト


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 2年ぶりの名古屋での宝塚歌劇公演は、閉館した中日劇場に代わって御園座での上演となった。選ばれた演目は、スタンダールの長編小説を原作とした『赤と黒』である。昨年亡くなった柴田侑宏の脚本で、1975年月組で初演。以来、1989年月組、2008年星組と再演を重ねている。

 私も足を運んでみたが、これが良い意味で予想を裏切られっぱなしの3時間であった。新型コロナウイルスの影響により、この公演もまた最後の5日間が休演となってしまった。残念ながら見逃してしまった人のためにも、熱演の様子をお伝えしてみたいと思う。

珠城ジュリアンの意外な魅力

 何より驚いたのはジュリアン・ソレルという役が珠城りょうにはまっていたことである。野心を心に秘めた青年ジュリアンは、真面目で誠実な男性の方が似合うイメージの珠城には合わないのではないか? そう思っていた人が大半ではなかっただろうか。正直、幕が上がるまでは私自身もそうだった。

 だが、よくよく考えてみるとジュリアン・ソレルという男性は田舎町の材木商の家に生まれながらもナポレオンを崇拝し、出世を望んで努力することを惜しまない。真面目で直情的な青年だ。じつは意外と不器用だし、強情なようでいて素直なところもある。そんなところが、まさに珠城りょうであったのだ。

 それを典型的に象徴していたのが、レナール氏に家庭教師として雇われたジュリアンが一家の前でラテン語の聖書を暗唱してみせるくだりだ。この場面、ジュリアンが己の能力を誇示する場面なのだが、珠城ジュリアンの場合、この一家でバカにされないための必死さの方が伝わってくるのだ。「聞いてください! 僕、がんばって全部暗記したんです」という感じである。そもそも出世するためにラテン語の聖書を全部暗記してしまうなんて、いかにも体育会系だ。

 2人の女性から愛されるという印象ばかりが強いから、ジュリアン・ソレルといえばモテる色男のように思える。だが、モテることは確かなれど、ジュリアンは決して手練手管の恋愛上手ではない。むしろ恋愛に関してはコラゾフ公爵の指南が必要なほどに初心だ。おまけに真面目で直情的だから、こちらから仕掛けた恋でも自分の方がのめり込んでしまうのである。これまた珠城の持ち味にはぴったりで、しかもこういうジュリアンは女性から見ても好感度が高い気がした。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

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