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ネット経由の緩いリベラルな「読書」――格別面白い2つの連載

今野哲男 編集者・ライター

本当のリベラルを知るために

 では、手練手管が不可欠な政治の分野ではなく、一般人として「一貫性」と「緩さ」を併せ持ったリベラルであり続けるためには、どうすればよいのか。「それは~」などと、ここで「お為ごかし」を弄するつもりはない。

 ただ、私見では「これは、かなりいいんじゃない」と推薦したいものはある。それは、冒頭で述べた「ネットが書籍を駆逐する」というような予言を装った退嬰的な「お為ごかし」に、肘鉄を食らわす痛快至極なネット上の企画である。いずれも、書籍の執筆を生業とする、私見では筋金入りの「揺るぎない緩いリベラル」と目される人の連載だ。――「揺るぎないリベラル」なんて、今のこの国では形容矛盾のように聞こえるかもしれないけれど。

 ネット全体に目が届くわけがないので、幾つもあるに違いない同種の企画の中から、まずは格別面白いと思われる二つを紹介する(ご存じの方は読み飛ばして下さい)。一つ目は、「現代書館」のWEBマガジンに連載中の「斎藤美奈子・森達也対談」だ。

 片や文芸評論家、片や作家・映画監督、名うてのリベラルとして世評の高い、県立新潟高校の同期生でもある二人の論客が、時々の時事問題や文学の話題を、「往復メール」で語り、それぞれの視点で主張をし合うという体裁だが、ネットやメールの特性である「書かれる話し言葉」の融通無碍なところが、目まぐるしく移り変わるテーマに反映し、読んで飽きる事がない。

「現代書館」のwebで連載中の斎藤美奈子さん拡大「現代書館」のwebで森達也との対談を連載中の斎藤美奈子
「現代書館」のwebで連載中の斎藤美奈子さん拡大森達也

 連載は2009年7月に開始されており、もう10年以上になるが、両名に半月ずらして月1回の締め切りが設けられ、連載回数が最新回の2020年2月19日の回で100回目。締め切り通りであれば250回を超える計算なのに、どうやらそこもやや「緩い」ようだ。しかし、アーカイブ化されて目次もついており、全ての回が時系列で読めるのが有難い。どこから読んでもいいし、どこを読んでも面白いのだが、スペースが限られているので、今回は目次で目に付いた2009年11月10日付の、森達也の「人類はメディアで滅亡する(6)」と題された回の末尾部分を紹介する。

――今日の日付は8月30日未明。衆院選の帰趨はほぼ決しました。民主の圧倒的勝利。前回の総選挙の際には、優勢(ママ)民営化是か非か式の二項対立で自民の圧倒的勝利。そして今回は、政権交代是か非か式の(やっぱり)二項対立選挙で民主の圧倒的勝利。どっちも共通することは民意の暴走。二大政党制の弊害は政治がポピュリズム化すること。やっぱりこの国にはこの制度は危険すぎる――。

 出来事としては古いが、この国にありがちな「二項対立」という、中間項が見えないという根源的な問題を提起しているのが目を引く。こういう古さが古くならない捉え方は斎藤美奈子にも共通で、この「対談」最大の魅力になっている。どの回もメールの全文ではない気配があるので、いずれ単行本化されるのだと思う。

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筆者

今野哲男

今野哲男(こんの・てつお) 編集者・ライター

1953年生まれ。月刊『翻訳の世界』編集長を経てフリーに。「光文社古典新訳文庫」に創刊以来かかわり、また演劇体験をいかして『セレクション 竹内敏晴の「からだと思想」』全4巻(藤原書店)などを編集。著書に『竹内敏晴』(言視舎評伝選)、共著に森達也との『希望の国の少数異見』(言視舎)、インタビュアーとしての仕事に、鷲田清一『教養としての「死」を考える』、吉本隆明『生涯現役』(以上、洋泉社)、木村敏『臨床哲学の知』(言視舎)、竹内敏晴『レッスンする人』(藤原書店)、『生きることのレッスン』(トランスビュー)など。現・上智大学非常勤講師。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです