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『反日種族主義』の「ありがたい」解釈に、心地よくなってはならない

福嶋聡 ジュンク堂書店難波店店長

 2019年末、ぼくが最も気になったのが、『反日種族主義――日韓危機の根源』(李栄薫編著、文藝春秋)の刊行直後の半端ではない売れ行きであった。新刊配本時から、「これは飛びつく読者がいるかも」と思っていたが、初速は予想以上で、カウンター前の話題書棚で展開すると、どんどん売れていく。

 最初から購入を決めていたお客様が、一直線にこの本に向かいカウンターに持って来る情景を、ぼくは店頭で何度も見た。それは、他の書店でも同様であったらしく、11月半ばに出たこの本が、年内に40万部まで増刷されたと聞いた。

『反日種族主義――日韓危機の根源』(李栄薫編著、文藝春秋)拡大李栄薫編著『反日種族主義――日韓危機の根源』(文藝春秋)
 韓国の経済学者の編著書が、どうして日本でこんなにも多くの人を惹きつけるのか? 背景には、タイトルにも含まれる「日韓危機」がある。本書では、韓国の「反日種族主義」から派生する誤った歴史認識・歴史教育が、日本を見る目を歪めていると糾弾される。「植民地」時代、日本は韓国に、言われているほどひどいことをしたわけではない、と言っているのである。

 「反日種族主義」とは何か?

 編著者・李栄薫によれば、その根源には韓国のシャーマニズムがある。シャーマニズムには善と悪を審判する神は存在せず、その現実は「丸裸の物質主義と肉体主義」(P24)であり、韓国人は、「民族」というより、隣人を必ず永遠の仇とみなす「種族」と呼ばれるのがふさわしい。そうした韓国人の本質が、今日の反日感情を醸成しているのだという。

 「反日種族主義」は、嘘も平気で容認する。本書のプロローグを“韓国の嘘つき文化は国際的に広く知れ渡っています”(P14)と書き起こす李栄薫は、韓国の政治も学問も嘘にまみれていると断言する。2019年、日韓関係に緊張をもたらした「徴用工問題」も、「この国の嘘をつく文化は、遂に司法まで支配するように」(P19)なった結果だというのである。

 “一九三七年、日本と中国の間で戦争が勃発しました。以後、毎年一〇万人以上の朝鮮人が自発的に日本に渡って行きました。より高い所得とより良い職場を得るためにです”(P22)

 1944年9月以降、実際に徴用されて日本に行った韓国人労働者についても、“彼らが奴隷として強制連行されたとか酷使されたという今日の通念は、一九六五年以後、日本の朝鮮総連系の学者たちが作り上げたでたらめな学説が、拡散した結果に過ぎません”(P23)と言い切る。

 他の、日韓の争点となってきた問題についても、日本を弁護する。

 徴兵に応召した人たちについては、“言うなれば陸軍特別志願兵は、植民地期日本に忠誠を誓った「帝国の尖兵」でしたが、一九四五年以後には、また別の祖国大韓民国に尽忠報国する「祖国の干城」でした”(鄭安基、P102)とそれぞれの時期の支配者に追随したに過ぎないとし、「従軍慰安婦」もいたかもしれないが、それは日本軍の暴挙というよりも、朝鮮半島で古来続けられた公娼制の延長であった、むしろ恥ずべきは「従軍慰安婦」の前後にわたって続いてきた朝鮮の公娼制である、という面を強調する。

 “日本軍慰安婦制は民間の公娼制が軍事的に動員・編成されたものに過ぎません。……そのため、「公娼制から慰安婦制への移行」とは言うものの、それは形式的な変化に過ぎませんでした。生まれたのは「慰安婦」という偽善的な名称だけ、と指摘する研究者もいます”(李栄薫、P258)

 日本への移住・就業も兵役応召も、韓国人じしんの選択であり、「従軍慰安婦」も韓国の公娼制度の長い歴史の一コマに過ぎない。日本人にとっては、「ありがたい」解釈である。昨年来の日韓関係の悪化を思えば、歓迎すべき本にも見える。

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筆者

福嶋聡

福嶋聡(ふくしま・あきら) ジュンク堂書店難波店店長

1959年生まれ。京都大学文学部哲学科卒。1982年、ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)、京都店、仙台店、池袋本店などを経て、現在、難波店店長。著書に『希望の書店論』(人文書院)、『劇場としての書店』(新評論)など。

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