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認知症の日常を演劇に、町の人たちとつくる

高齢者、認知症と楽しく生きる俳優の覚え書き(6)

菅原直樹 俳優・介護福祉士

 東京で俳優をしていた筆者は、岡山県に移住し、老人介護施設で働きながら、「老い・ぼけ・死」から名前をとった演劇集団「OiBokkeShi」を作った。ワークショップで出会った〝怪老人〟岡田忠雄さんを主役に、和気町を舞台にした初の公演『よみにちひはくれない』に臨んだ。

認知症の妻を介護する夫、実生活と同じ役を演じる

『よみにちひはくれない』を演じる筆者(左)と岡田忠雄=岡山県和気町

 2015年3月、徘徊(はいかい)演劇『よみちにひはくれない』は無事に終了した。

 OiBokkeShiの記念すべき第1作は、実在の商店街を俳優と一緒に“徘徊”して鑑賞する、一風変わった舞台だった。

 この舞台を作るきっかけとなったのは、出演者の岡田忠雄さん(この時88歳)の介護体験だった。

 岡田さんは在宅で認知症の奥さんを介護しており、奥さんが知らぬ間に外に出て帰ってこられなくなってしまう、いわゆる“徘徊”の問題に悩まされていた。

 『よみちにひはくれない』では、岡田さんに、自身と同じ境遇、認知症の妻を介護している「定国のじいちゃん」役を演じてもらった。

岡田さん自身の言葉がセリフに

『よみちにひはくれない』公演のちらし
 じいちゃんは駅のロータリーで認知症の妻を探している。そこに、20年ぶりに和気に帰省してきた神崎という男が現れる。この役は僕が演じた。神崎はかつて子供だった頃、じいちゃんが営む洋服屋に入り浸っていた。

 神崎は、じいちゃんが妻を捜索していることを知ると、「え、警察には連絡したの?」と尋ねる。

 しかし、じいちゃんは「そんなことはせん。大ごとになるからな。何より、ふうが悪い(世間体が悪い)と答える。

 このセリフは、僕が書いたのではなく、奥さんを介護する岡田さんの自身の言葉だ。

 神崎は、介護を一人で抱え込んでしまっているじいちゃんの話に耳を傾け、「そしたら、ばあちゃん一緒に探すよ」と声をかける。やがてじいちゃんは妻への思いを打ち明けはじめる。

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