高齢者、認知症と楽しく生きる俳優の覚え書き(6)
2020年03月12日
東京で俳優をしていた筆者は、岡山県に移住し、老人介護施設で働きながら、「老い・ぼけ・死」から名前をとった演劇集団「OiBokkeShi」を作った。ワークショップで出会った〝怪老人〟岡田忠雄さんを主役に、和気町を舞台にした初の公演『よみにちひはくれない』に臨んだ。
2015年3月、徘徊(はいかい)演劇『よみちにひはくれない』は無事に終了した。
OiBokkeShiの記念すべき第1作は、実在の商店街を俳優と一緒に“徘徊”して鑑賞する、一風変わった舞台だった。
この舞台を作るきっかけとなったのは、出演者の岡田忠雄さん(この時88歳)の介護体験だった。
岡田さんは在宅で認知症の奥さんを介護しており、奥さんが知らぬ間に外に出て帰ってこられなくなってしまう、いわゆる“徘徊”の問題に悩まされていた。
『よみちにひはくれない』では、岡田さんに、自身と同じ境遇、認知症の妻を介護している「定国のじいちゃん」役を演じてもらった。
神崎は、じいちゃんが妻を捜索していることを知ると、「え、警察には連絡したの?」と尋ねる。
しかし、じいちゃんは「そんなことはせん。大ごとになるからな。何より、ふうが悪い(世間体が悪い)」と答える。
このセリフは、僕が書いたのではなく、奥さんを介護する岡田さんの自身の言葉だ。
神崎は、介護を一人で抱え込んでしまっているじいちゃんの話に耳を傾け、「そしたら、ばあちゃん一緒に探すよ」と声をかける。やがてじいちゃんは妻への思いを打ち明けはじめる。
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