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新型コロナ、公演自粛の嵐の中で演劇を考えた

公演はできるのか? 稽古場からの肉声【下】

シライケイタ 劇団温泉ドラゴン代表、劇作家、演出家、俳優

 新型コロナの感染拡大を防ぐために、政府によって文化イベントの「自粛」を要請されてから2週間。「出口」のはずだった現在も、まだ、事態は収束していない。公演中止が相次ぐ演劇界は、精神的にも経済的にも、深刻な影響が出始めている。4月1日に演劇公演『SCRAP』の初日を控える気鋭の演劇人シライケイタさんによる「現在地」の報告、2回目です。1回目はこちら

初日を目指して『SCRAP』の稽古は続く

分からないことが多過ぎる

 前回の原稿で、貧乏小劇団の、かなり切実な内情をお話しさせていただきましたが、稽古が始まってからの1週間、実はお金のことはほとんど考えていませんでした。

 これはもう、最終的には歯を食いしばって乗り越えるしかない。家族を飢えさせるわけにはいかないし、なんとかしなきゃいけない。10年間一緒にやってきた仲間で力を合わせれば、お金のことは何とかなるだろうと。

 それよりも重要なことは、コロナウイルスによる健康被害が実際のところどうなのだ? という問題です。

 これを書いている時点(3月10日午前)で、イタリアでは感染者が9000人を超え、死者が450人を超えたと報道されています。死亡率5%ですから、かなり高いという印象です。今後も爆発的に増えていくだろうと予想されています。

 韓国では、感染者が7500人で死者は51人。死亡率だけを見ると、0.7%ほどとイタリアとは桁違いに低く、感染の拡大が鈍化し安定局面に入りつつある、との報道もあります。

 一方、日本の感染者は524人で死者は9人。死亡率は1.7%ほど。

 感染者の数も死者の数も少ないじゃないか、ということを言いたいのではありません。日本ではそもそも検査の実施数が少ないため、正確なところが分かっていないと言うのが本当のところでしょう。

 実は、僕たちが上演するかしないかの判断に一番困っているのが、ここなのです。

 「実際のところ、どうなのだ?」ということです。

 つまり、分からないことが多すぎる。報道を信じるなら、イタリアの爆発的な拡大は、日常的にハグやキスをする文化が大きな原因だと言うことです。日本人には、挨拶がわりにハグやキスをする習慣はありません。

 あくまでも仮定の話ですが、もしコロナウイルス感染による死亡率が100%なら、これはもう選択肢はありません。とても演劇なんかやっている場合ではなく、全国民が家から一歩も外に出るべきではありません。

 では、もし50%だったら? これも同様でしょう。感染者の2人に1人が死亡すると分かっていたら、ほとんどの人は外出しないでしょう。

 では30%だったら? 10%だったら? 5%だったら? 3%だったら?……。

 このように考えていくと、一体何%が、人々が安全だと感じる閾値で、倫理的にも健康的にも、イベント開催が許される数字でしょうか?

命か芸術か、二元論は危険だ

演出するシライケイタ=スズキヨシアキ撮影

 東京芸術劇場の芸術監督で、長年、現代演劇をリードしてきた野田秀樹さんが発表した「公演中止で本当に良いのか」と題した意見書に、批判が集まっています。

 ここでその内容に詳しくは触れませんが、同じ演劇人として野田さんの言葉に勇気をもらったことは確かです。

 批判の多くは、野田さんの書いた「演劇の死」という言葉をとらえ、「演劇よりも人間の命の方が大事に決まっているだろう」という論点です。

 僕は、これはとても極端で危険な考え方だと思います。

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