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〈二子玉川 本屋博〉の大成功にみる、書店と本と本好きの希望

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

書店人の「個としての発信力」

 その「発信力」とは何か。参加店のひとつである「BOOKS青いカバ」の小国貴司さんによると、客観的に見てそこには明らかに新しい局面があるという。今までにも「発信力」を持っていた書店人はいた。たとえばジュンク堂の福嶋聡さんや、リブロからジュンク堂に移った田口久美子さんなど、著書をもち業界への提言も多い書店人たちである。それら先人と彼らはどう違うのか。

 「福嶋さんにしても田口さんにしても、どこか会社の看板なり業界なり大きなものを背負って発言している感じがあった。ところが彼らはそれとはまったく別の方向のベクトルを持っているんです」

BOOKS 青いカバ〉の店主・小国貴司氏拡大参加店の一つ「BOOKS青いカバ」の店主・小国貴司氏=提供:「二子玉川 蔦屋家電」

 確かに、今回の本屋博に参加していたなかにも、いわゆる「店の看板」を背負っている人はいた。たとえば山下優さん(青山ブックセンター)や花田菜々子さん(HMV&BOOKS)などだ。けれども彼らの発信は、いわば「個としての発信」なのだ。書店自身が版元になるという革新的な事業を始めた山下さんにしても、『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)という本を出した花田さんにしても、その発信は極めてプライベートな場所から行なっている気がする。

 またどの店舗も「自己表出」がとても巧みだというところは共通している。自らが発行元となって「ZINE」(“Magazine”の“zine”が語源。個人誌、リトルプレス)を出しているところも多い。今回〈本屋博〉でも、ここでしか買えないZINEがお客を惹きつけていた。その他印刷物に限らずオリジナルな小物などグッズも魅力的だった。

 また、みなそれぞれにSNSの使い方に長けているのも特筆すべきことだ。TwitterやFacebookを使った事前のPRから、当日の実況中継的なつぶやき、事後の感想までが、フォロワーを通じて拡散される。

 発信力のある店主が構えるブースなので、しぜんカウンター越しのお客とのコミュニケーションが絶えない。これほど「会話」に溢れたフェスはこれまでに経験したことがなかった、と北田さんは振り返る。

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筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。