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〈二子玉川 本屋博〉の大成功にみる、書店と本と本好きの希望

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

人から人へと商品が手渡される風景

 いま「フェス」ということばを使ったが、〈本屋博〉の広報を担当した蔦屋家電の下八川薫さんによると、「これは〈フェス〉だから」との北田さんのひと言ですべてが腑に落ち、PRの方針がすんなり決まったという。SNSで情報を小出しにしつつ当日の山場に持っていく手法、旬のミュージシャンのライブやトークショーを組み合わせたプログラムの作り方などは、音楽や野外フェスのPRのノウハウを駆使したとのことである。

 また何よりも参加店舗の快適さや満足度を最優先に考えたのも勝因のひとつで、出店のバックアップから当日のフォローなど細心の注意を払ったことが実を結んだのかもしれない、とも北田さんはいう。

『二子玉川 本屋博 2020 OFFICIAL ZINE』色違いの表紙4種拡大「二子玉川 本屋博 2020 OFFICIAL ZINE『本屋の本当』」の色違いの表紙4種=提供:「二子玉川 蔦屋家電」
 その他にもこの〈本屋博〉を異例の成功に導いた要因はさまざまあるだろう。けれどもそのすべての根底には、書店という存在を「人を介して本と出会える場所」と規定する北田さんの実行委員長としてのことば通り(二子玉川 本屋博 2020 OFFICIAL ZINE『本屋の本当』より)、ネットの商いにはない「人から人へと商品が手渡される風景」が具現化したという事実の大きさがある。

 物を売り買いするという行為の根底に〈人〉がいる、という、いってみれば当たり前すぎることが当たり前でなくなっている時代にあって、この〈本屋博〉の魅力はまさにその基本を示してくれた、といえばやや大袈裟に響くだろうか。

 しかしそう考えなければ、「古本」という一期一会の1点ものやその場でしか買えないオリジナル商品が売れたことは理解できるが、新刊書店が並べた「新刊本」、いわばそこでなくてもどの書店でも手に入る商品も同程度に売れていたという事実の説明がつかない。

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筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。