東京オリンピック2020が日に日に遠ざかっている。
朝日新聞社が3月14、15日に行った全国世論調査でも、東京オリンピック・パラリンピックをどうしたらよいかという質問に「延期する」と答えた人が全体の63%で一番多かった。9%が「中止する」で「予定通り開催する」は23%。「どうすべきか」という問いではあるが、国民の大多数に「2020年の開催はない」という見立てというか、予測というか、諦念というか、そういうものがあるとみていいのだろうと思う。
私もその1人だ。延期なのか中止なのかはわからないが、とにかく2020年の開催は実現しないのだろうと思う。とりたてて感じることはなかったのだが、鈴木典行さんという人を知り、少し変わった。鈴木さんは今、どんな気持ちでいるだろう。そう思うとつらい。
鈴木さんを知ったのは、3月11日だった。宮城県石巻市の会社員で、聖火ランナーに選ばれた人だとテレビが紹介していた。市立大川小学校の6年生だった娘の真衣さんを津波で亡くしているという。真衣さんが11年の3月11日に忘れていったという名札の写真を持ち、これは一度も外に持ち出していないが、聖火ランナーとして走る日は胸に付ける。娘と一緒に走るのだ。そう語っていた。
鈴木さんは、大川小で語り部の活動もしている。聖火ランナーの応募書類にも「子どもたちが犠牲になったことを忘れてほしくない。走ることで少しでも、世界に発信していきたい」と書いたことも紹介されていた。
オリンピックに寄せる思い。それがひしひしと伝わってきた。そのニュースを見ながら、オリンピックの現実を思った。新型コロナウイルスの影響から、「中止」「延期」が現実味を増していた。それでも東日本大震災9年目にあたり、鈴木さんという聖火ランナーを紹介し、オリンピックへの思いを語ってもらうメディア。「矛盾じゃない、いや矛盾だ」。田畑政治の声が聞こえてきた。正確には田畑演じる阿部サダヲの声なのだが。

「いだてん」で金栗四三役の中村勘九郎(左)と田畑政治役の阿部サダヲ=撮影・村上健