2020年03月20日
東京オリンピック2020が日に日に遠ざかっている。
朝日新聞社が3月14、15日に行った全国世論調査でも、東京オリンピック・パラリンピックをどうしたらよいかという質問に「延期する」と答えた人が全体の63%で一番多かった。9%が「中止する」で「予定通り開催する」は23%。「どうすべきか」という問いではあるが、国民の大多数に「2020年の開催はない」という見立てというか、予測というか、諦念というか、そういうものがあるとみていいのだろうと思う。
私もその1人だ。延期なのか中止なのかはわからないが、とにかく2020年の開催は実現しないのだろうと思う。とりたてて感じることはなかったのだが、鈴木典行さんという人を知り、少し変わった。鈴木さんは今、どんな気持ちでいるだろう。そう思うとつらい。
鈴木さんを知ったのは、3月11日だった。宮城県石巻市の会社員で、聖火ランナーに選ばれた人だとテレビが紹介していた。市立大川小学校の6年生だった娘の真衣さんを津波で亡くしているという。真衣さんが11年の3月11日に忘れていったという名札の写真を持ち、これは一度も外に持ち出していないが、聖火ランナーとして走る日は胸に付ける。娘と一緒に走るのだ。そう語っていた。
鈴木さんは、大川小で語り部の活動もしている。聖火ランナーの応募書類にも「子どもたちが犠牲になったことを忘れてほしくない。走ることで少しでも、世界に発信していきたい」と書いたことも紹介されていた。
オリンピックに寄せる思い。それがひしひしと伝わってきた。そのニュースを見ながら、オリンピックの現実を思った。新型コロナウイルスの影響から、「中止」「延期」が現実味を増していた。それでも東日本大震災9年目にあたり、鈴木さんという聖火ランナーを紹介し、オリンピックへの思いを語ってもらうメディア。「矛盾じゃない、いや矛盾だ」。田畑政治の声が聞こえてきた。正確には田畑演じる阿部サダヲの声なのだが。
ここからNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」の話をする。19年のドラマで、すでに時代は「麒麟がくる」と承知してはいるが、ぜひとも話をさせていただきたい。
ドラマ後半は田畑政治という男を主人公に、2つの「東京オリンピック」が描かれた。開催が決まっていながら戦争で返上した1940年の幻のオリンピック、そしてアジア初の開催となった64年のオリンピック。
田畑が「矛盾じゃない、いや矛盾だ」と語ったのは、日本と中国の全面戦争が始まった37年を描いた回だった。オリンピックを「紀元2600年の祭典」として盛り上げようとする空気と、返上すべきという議論。両方が渦巻いていた。
「矛盾」が語られたきっかけは、金栗四三(中村勘九郎)というドラマ前半の主人公(12年のストックホルム大会に出場したマラソン選手)の一言だった。「どんパチやっとる国で平和の祭典。矛盾しとるばい」。新聞記者である田畑は、これに同意する。自分も中国に兵を送り出す記事を書き、同時に聖火リレーのコースを考えている、夢と現実が入り混じってぐちゃぐちゃで、これは矛盾だと。
すると金栗は、第一次世界大戦の拡大で中止となった16年のベルリンオリンピックでの体験を語る。絶好調だった。でも出られなかった。今は指導者をしている。教えている選手をオリンピックで走らせてやりたい。その気持ちは矛盾だろうかと問う。
田畑はここで、「矛盾じゃない、いや矛盾だ」と言う。そしてスポーツは矛盾だらけだと続ける。なぜ走る、なぜ泳ぐ。答えられない。でも、それしかない。あなたも私もオリンピックしかない。「戦争で勝ちたいんじゃない。マラソンで勝ちたい。水泳で勝ちたいんだよ」と。
この2人に嘉納治五郎(役所広司)を加え、脚本の宮藤官九郎はドラマ後半、「国家とオリンピック」をぐいぐい語らせた。嘉納はヒットラーが支配するベルリンオリンピックを目の当たりにし、感化される。紀元2600年なのだ、チマチマやってはダメだ、と。
それでも嘉納は開催の意思を変えず、カイロで開かれたIOC(国際オリンピック委員会)総会に単身乗り込む。「オリンピックと政治は無関係だと、東京で証明してみせます」と宣言、改めて開催承認を取り付ける。そして、カイロから日本に帰る氷川丸で亡くなる。
だがドラマは、それでは終わらない。
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