メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

新型コロナウイルス禍、パリの“軟禁生活”は「他人の命を守るため」

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

コロナ禍は雪崩のようにやってくる

 フランス政府は新型コロナウイルスの感染拡大の予防措置として、2020年3月17日から、接触を避けた買い物や通院など必要な外出は例外として、全国民に自宅待機を強いた。

 その数日前に当たる3月12日頃から、SNS上で再生回数を伸ばしていた動画がある。それがこちらだ。

 ツイッター上の映像
 YouTube上の映像

映画『フレンチアルプスで起きたこと』ポスター映画『フレンチアルプスで起きたこと』のポスター
 これは映画『フレンチアルプスで起きたこと』(2014)の一場面である。監督はリューベン・オストルンド。2017年のカンヌ国際映画祭で、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』が最高賞のパルムドールを獲得したスウェーデンの俊才だ。

 映像にはスキー場のテラスに座る子連れ家族が見える。背景は一面、白銀の世界。遠くには雪の地滑りらしきものがちらちらと見える。「雪崩じゃない?」「コントロールされている(から大丈夫)」と夫婦の会話。父親はどこか楽しんでいる様子さえあり、携帯で動画撮影をしている。だが、眺めているうちに雪崩は確実に迫り、やがて瞬く間に彼らを呑み込む。

 この一連の流れは、コロナウイルスの脅威と似ている。遠く中国にあった脅威が徐々にしのび寄り、今はイランか、イタリアか、でもまだ大丈夫、と思っているうちに気がつくと手遅れ。それは今日のフランスの姿であり、明日の日本の姿かもしれない。

感情が追いつかない非現実な現実

 コロナ禍はまさに雪崩のようにフランスを呑み込み、生活を一変させた。2020年3月23日現在で、フランスの感染者数は1万9856人、死者数は860人を数える。

 とりわけ緊急措置が実行に移されるスピードには驚かされる。筆者はパリ在住で、目下、“自宅軟禁”中の身の上。ここ数日の仏政府の決定は、これまで国が経験したことのないドラスティックなものばかりで、非現実な現実に感情が追いつかないほどだ。

 まず3月8日にはウイルスの感染拡大を受け、デモ、試験、公共交通手段の運営を除く1000人以上の集会が禁止された。

 3月12日にはマクロン大統領がテレビ演説し、翌週の16日月曜から、幼稚園から大学まで一斉の休校措置を勧告。この重大な演説から国の空気が変わるのがわかった。翌13日には100人以上の集会が禁止に。映画や演劇、音楽、スポーツなどの興行界に衝撃が走った。

 14日の19時半にはフィリップ首相が、「ウイルス感染がstade3(拡大期)に入った」と明言し、必要最低限の買い物や運動以外は、外出しないよう国民に呼びかけた。同時にカフェやレストランなど飲食店、美術館や映画館などの文化施設、バーやディスコ、商店など、生活に必要不可欠でないとされる公に開かれた場所は、15日の深夜0時に一斉封鎖することを決定した。

 フランスが誇るカフェや映画館が閉まると聞き、これは本当に戦時に匹敵する非常事態なのだと、

・・・ログインして読む
(残り:約2983文字/本文:約4228文字)