林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト
フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
フランス政府は新型コロナウイルスの感染拡大の予防措置として、2020年3月17日から、接触を避けた買い物や通院など必要な外出は例外として、全国民に自宅待機を強いた。
その数日前に当たる3月12日頃から、SNS上で再生回数を伸ばしていた動画がある。それがこちらだ。
これは映画『フレンチアルプスで起きたこと』(2014)の一場面である。監督はリューベン・オストルンド。2017年のカンヌ国際映画祭で、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』が最高賞のパルムドールを獲得したスウェーデンの俊才だ。
映像にはスキー場のテラスに座る子連れ家族が見える。背景は一面、白銀の世界。遠くには雪の地滑りらしきものがちらちらと見える。「雪崩じゃない?」「コントロールされている(から大丈夫)」と夫婦の会話。父親はどこか楽しんでいる様子さえあり、携帯で動画撮影をしている。だが、眺めているうちに雪崩は確実に迫り、やがて瞬く間に彼らを呑み込む。
この一連の流れは、コロナウイルスの脅威と似ている。遠く中国にあった脅威が徐々にしのび寄り、今はイランか、イタリアか、でもまだ大丈夫、と思っているうちに気がつくと手遅れ。それは今日のフランスの姿であり、明日の日本の姿かもしれない。