2020年03月27日
前回は、SMAPの結成からブレークまでを音楽とバラエティの両面からみた。今回は、それ以後の彼らの軌跡をたどってみたい。そのうえで、SMAPという存在がそれまでのジャニーズアイドルとどのように違っていたのか、そして後の時代にどのような影響を及ぼしたのか、探ってみたいと思う。
1996年4月15日、SMAPの冠バラエティ番組『SMAP×SMAP』(以下、『スマスマ』と表記)が始まった。フジテレビ系の月曜夜10時。「月9」に続く時間帯である。実はその日は、メンバーの木村拓哉が主演して社会現象的な人気を博することになる『ロングバケーション』の初回放送日でもあった。『スマスマ』の冒頭に生放送でそのことを話題にする場面もあり、グループとソロの両立を図るSMAPの活動を凝縮したような番組編成でもあった。
前回もふれたように、『スマスマ』はアイドルが本格バラエティのメインを務めるという点で画期的なものだった。
「バラエティ」と聞くと、いまはまずお笑いを連想するだろう。しかし、原義の「variety show」が示すように、元々バラエティは多彩な芸や娯楽を並べてひとつのショーとして楽しませる番組のことを言った。日本のテレビで言えば、1960年代前半の『夢であいましょう』(NHK)や『シャボン玉ホリデー』(日本テレビ系)がそれに近い。コントもあればトークもあり、そして歌やダンスもある。それが本来のバラエティだった。
その意味で、『スマスマ』はまさにバラエティの王道を行くものだった。旬のゲストを招いて料理を振る舞いながらトークを楽しむ「BISTRO SMAP」、「マー坊」「古畑拓三郎」「カツケン」など多くの人気キャラクターを生んだオリジナルコント、そしてマドンナやマイケル・ジャクソンなど海外の大物を含む人気アーティストとのコラボによる「S-Live」。この基本構成は、番組が続いた約20年間ほとんど変わらなかった。
そこで私たち視聴者は、器用に料理をつくり、コントで見事にキャラクターになりきる彼らに驚かされた。と同時に、お笑い芸人にはまねのできない歌とダンスのアドバンテージも大きかった。それゆえ彼らは、もう見られなくなりつつあった王道バラエティのスタイルを復活させることができたのである。
さらに『スマスマ』には、1980年代の漫才ブーム以降の新しいバラエティの要素も上手く盛り込まれていた。それは、素の魅力の発揮である。そこに、前回ふれた音楽番組の減少というネガティブな理由だけではない、SMAPがバラエティに進出したよりポジティブな理由もあったように思える。
前回もふれたように、男性アイドル史のなかでSMAPは「普通の男の子」の系譜を受け継いだ。時にはかっこわるい部分をさらすこともいとわない。だがそれゆえ私たちも共感し、応援できる。そんな「王子様」でも「不良」でもない「普通の男の子」という第三の道をSMAPは大きく発展させた。
素を見せることは、当然「普通の男の子」としての魅力を増すことに通じる。その点バラエティは、音楽番組やドラマ以上に「普通の男の子」の魅力を発揮するのに適していた。本職のお笑い芸人に負けないくらいコントをこなす一方で、トークやロケなどでは素の魅力を存分に発揮する。また、「S-Live」のコーナーで見せるかっこよさとのギャップが素の魅力をより際立たせるという相乗効果もあった。
この『スマスマ』の成功がもたらした影響はきわめて大きかった。SMAPの後にデビューしたジャニーズグループにとって、歌手活動の一方で冠バラエティ番組を持つことが成功の目安になった。TOKIOやV6などSMAPに近い世代だけでなく、嵐からいまの若手グループに至るまで「歌とバラエティの両立」という基本スタイルは変わっていない。
とはいえ、『スマスマ』にはバラエティという枠を超えたドキュメンタリーとしての側面もあった。
1996年5月、森且行が夢だったオートレーサーになるためグループを脱退した。それを受けて『スマスマ』の歌のコーナーでは、森自身の選曲により「$10」「がんばりましょう」などのメドレーが歌われ、「BEST FRIEND」のときには中居正広が号泣して歌えなくなる場面もあった。そして後に結成25周年を記念して『スマスマ』で5人が旅をする特別企画(2013年放送)があった際、宿泊先の旅館のカラオケで「BEST FRIEND」を歌い、同様の場面が繰り返されることになる。
このようにグループにとって大きな節目になるような出来事があったとき、『スマスマ』は一種のドキュメンタリーになった。
それは感動的な場面だけではない。稲垣吾郎や草彅剛の不祥事があった際、
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