2020年03月30日
今、キューバから原稿を書いている。そもそもは米国による経済封鎖強化の続くこの国が、オバマ政権時代に私自身が3年と少し過ごした時代といかに変化しているかについて、現地情報をリポートするはずだった。にもかかわらず新型コロナウィルス=COVID-19関連のものになってしまった。
それだけ今の世界情勢の中でこのウイルスが引き起こしたもろもろの事象が大きく、またキューバが世界でウイルスに感染した人々の命を救うのに素晴らしく多大な貢献をしているか、でもある。そこでキューバの活躍に関するニュースが日本でどのくらい一般的だろうか、と思いながら書くことにする。
まず、中国の武漢でこのウイルスの感染が伝えられた後の2020年1月、キューバの医療団が中国入りしたニュースを見た。「きたっ」と思った。キューバと中国の強い結びつきがあり、また、キューバは知る人ぞ知る、高度医療先進国だからである。
この時キューバの医療団が携えていったのは、別に新薬ではなかった。これは、インターフェロンアルファ2bといい、1986年、遺伝子工学・バイオテクノロジー研究センター(CIGB)のチームによって開発されたもの。これは日本でも認可された薬。そもそもインターフェロンは、人の免疫システムに働きかけ、それを強める作用を持つ。アルファ2bも例外ではない。当初は、デング熱などの薬として開発された。キューバも、熱帯・亜熱帯のかなり多くの地域でみられる、蚊が媒介するデング熱の発症地域である。またこの薬はHIV-AIDS、B型およびC型肝炎、さまざまな癌に効果のあるものとしても、使用されてきた。
ウイルスに対しては「感染後の症状悪化を阻止し、致命的な段階に入るのを防ぐ」という。つまり、ウイルスを殺すわけではなく、人の免疫力を使って、抗ウイルスの作用を促す。中国でもキューバとのパートナーシップにより2003年から作られるようになり、今回の新型ウイルスにも、中国で選ばれた30種類の薬のうち効果のあった21の薬のひとつとして、1000人以上もの命を救ったとされている。キューバはこの中の何種類かを開発している。
韓国、ドイツなどでも実際に効果を発揮し、死者の増加を食い止め、その他のヨーロッパ、ラテンアメリカの国々からも、当然のごとくオーダーが相次いでいる。各国からのオーダーで、この薬の製造所は多忙を極めており、フレックス制で働いていた従業者はフルタイム制に変更。しかし、これからさらにオーダーが増えても対応できる構え、という。このキューバ産製剤については、すでに駐日キューバ大使が日本の厚生労働省と意見交換を行い、新型コロナウイルス対策の協力を申し出ている。
キューバの活躍を喜ばない米国の現政権は、各国にキューバ製のインターフェロンアルファ2bをオーダーしないように呼び掛けた、という記事も目にしたが人命尊重の立場から見ると目を覆いたくなるような発言は、聞くも心苦しい。
一方、キューバはすでに患者と死者の続出するイタリアでももっともダメージのあるロンバルディア州(州都はミラノ)からの要請をうけて、薬を携えて医師団を派遣した。以前からキューバは世界各地で起きた災害現場に多数の医療団を派遣し、その高度の医療と、温かい医師団の人柄とともに歓迎と感謝を受けてきた。長年のこうした体験も踏まえて、今回の迅速な対応に繋がったとみられる。しかし、医師とて人の子。「恐怖がないわけではない。しかしやらねばならない使命のためには、それを克服して向かう」という言葉とともに出発した。
また、世界で話題に上ったのは、各地で寄港を拒まれたイギリス客船をキューバが受け入れたこと。これは、感染者5人が確認された「ブリーマー号」で、バハマやバルバドス他で受け入れを拒否され、1週間ほどもカリブ海を彷徨い航行し続けた後、キューバに打診し、応じられたもの。入港後は、イギリスのチャーター便で、感染、またその可能性ある人と、それ以外の人たちを別々の4機に分けて帰国させた。イギリスに帰国する際、彼らは「Te Quiero、Cuba=キューバ、愛している」の横断幕を掲げていた。その安心感と感謝は「さぞかし」と、想像に難くない。
当のキューバでは、3月11日に、ついに最初の感染者が発生した。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください