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目前でバイクが転倒! その場から走って逃げた夕暮れの追憶

ミン・ヨンチ ミュージシャン 韓国伝統音楽家

 あれは小学校5年の時、大阪市生野区鶴橋にある親友の家にお泊りに行った時の事だった。

 土曜日の午後から公園で遊んだ後、パート先の彼のお母さんに晩ごはん代をもらいに行った。彼の家の鶴橋からお母さんの職場のある布施へ。4kmの距離だった。遠かった……。

 1時間くらいかけて、お母さんに晩ごはん代をもらった帰り道、もう暗くなっていた。交差点の横断歩道で信号待ちをしていると、横切ろうとしたカブのバイクが私たちの目の前で転倒! 火花を出して10mほどスリップしながら転がっていった。

 大変だ! 助けてあげないと! と思った瞬間、親友はこう言ったのだ。

 「逃げよう!!」

 私の家では、困った人がいたら、すぐに助けてあげなさい! 警察に連絡して救急車を呼びなさい! と教育を受けていたので、友達の「逃げよう!」にはビックリ……。

 そういって、手を引っ張られて、一緒に走ってその場を去った。結構、遠くまでひたすら走った。

 ようやく、どこかの公園にたどり着いた後、彼は息を切らせながら、こう言ったのだった。

 「俺んち、登録ないねん……」
 「だから、こういう時その場から逃げろって言われてるねん」

JR鶴橋駅付近の焼き肉商店街(大阪市天王寺区)

子どもたちに罪はない

 私は、1970年、大阪市西成区生まれ。

 当時、父の弟姉妹を始め、私の兄弟も通った学校に通ってた。

 クラスは全学年1クラスずつしかなく、しかも1クラスに52人もいた。しかし、6年になって、卒業する頃には人数が26人になっていた。

 なんと半分の学生が6年間の間に転校……して行ったのだ。

 みんな東京へ行くとか、地方へ行くとか、韓国に引っ越すとか。

 お別れパーティーもたくさんやった。

 けどそれは、全部、嘘。彼らの家族は、登録が無かったのだ。

Vectorpocket/Shutterstock.com

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