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新型コロナで公演中止、その決断に至るまで

小劇団のリアル、その後【上】

シライケイタ 劇団温泉ドラゴン代表、劇作家、演出家、俳優

3月26日夕:劇場から日程変更の打診

拡大温泉ドラゴン『SCRAP』の稽古をする出演者

 稽古中は、世の中の動きに鈍感になります。一日中稽古場にこもりっきりになり、作っている作品のことで頭がいっぱいでテレビなどもあまり見なくなるからです。よしんば情報が入ってきたとしても、何よりも作品作りを優先させてしまうという逃れがたい性質があることも自覚しています。

 ですから、23日に小池都知事がイベントの自粛要請期間を4月12日まで延長したことも、オリンピックの延期が決まった3月24日を境に都内の感染者数が跳ね上がっていることも、イタリアで死者が5千人を超えていることも、情報としては知っていましたが、我がこととして捉えることがなかなかできずにいました。

 そして26日。その日は18時から通し稽古を行う予定になっていました。その通し稽古が始まる直前、稽古場には来ていなかった制作担当者から劇団員だけが見ることのできるグループラインにメッセージが入りました。

 「劇場から連絡があり、可能であれば公演を4月13日以降にずらせないかとのことです」

 といった内容でした。自粛要請期間が12日まで延長になったので、それが明ける13日以降に後ろ倒し出来ないか、ということです。

 「稽古場に直接説明に出向きたいとおっしゃってます」

 ともありました。

 僕を含む劇団員は青くなりました。しかし、「中止してくれ」ではなく「可能ならずらせないか?」という言葉に、まだ予定通り上演できる可能性が残っている、と感じました。

 我々の劇団のことを少しご説明させていただくと、俳優は3人しか在籍しておらず、公演ごとに劇団外からゲスト俳優を招く必要があります。今回上演予定だった『SCRAP』は総勢12名の出演者ですので、9名のゲストを招いていました。また、音響や照明などのテクニカルスタッフも劇団にはおりませんので、全てのスタッフを毎回外注しています。

 出演者からスタッフまで劇団員だけで成立している公演ならまだしも、劇団以外の方全員を、予定よりも2週間以上長く拘束することなど、スケジュール的にも金銭的にも現実的には不可能です。ですので、劇場からの提案である「4月13日以降に後ろ倒しする」という選択肢は、我々にとっては非常に困難なことなのです。

 制作担当者に聞いても、その時点でそれ以上の情報はありません。取りあえず、予定通り通し稽古は行うことにして、その日の稽古が終わった後、劇場の方に稽古場に来てもらうことにしたのです。

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筆者

シライケイタ

シライケイタ(しらい・けいた) 劇団温泉ドラゴン代表、劇作家、演出家、俳優

桐朋学園芸術短期大学演劇専攻在学中に、蜷川幸雄演出「ロミオとジュリエット」パリス役に抜擢され俳優デビュー。数々の舞台やテレビ、CMに出演。2011年より劇作と演出を開始。劇団温泉ドラゴンの座付き作家・演出家として数々の作品を発表。劇団以外での演出や脚本提供も多く、アングラ劇団から老舗の新劇団まで多様な作風に対応する演出の幅の広さを持つ。社会における人間存在の在り方を、劇場空間における俳優の肉体を通して表出させる演出手法に定評があり、生と死を見つめた骨太な作品作りが特徴。「若手演出家コンクール2013」において、優秀賞と観客賞を受賞。15年、作・演出・出演した『BIRTH』の韓国ツアーを成功させ、密陽(ミリャン)演劇祭で戯曲賞を受賞した。18年『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(若松プロダクション)と『袴垂れはどこだ』(劇団俳小)の演出で、第25回読売演劇大賞「杉村春子賞」を受賞。 日本演出者協会常務理事。日韓演劇交流センター理事。日本劇作家協会会員。18年度より、セゾン文化財団シニアフェロー。 桐朋学園芸術短期大学、非常勤講師。桜美林大学芸術文化学群、非常勤講師。 著書に『BIRTH×SCRAP』(19年)がある。

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