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LGBT運動の歴史を知る「子ども向け」の本

L・G・B・Tと向き合い、大人も共に歩むための回路

松澤 隆 編集者

 ラジオ好きなら、「北丸雄二」ときいて「荒川強啓デイ・キャッチ!」を思い出す人は少なくないだろう。2019年3月まで24年間続いたTBSラジオの人気番組で、ほぼ毎週米国から(帰国時はスタジオで)政治の動きや注目すべき話題を伝えてくれた。語り口は優しいけれど、東京(中日)新聞・元ニューヨーク支局長というキャリアならではの取材力と分析力を楽しみにしていた。番組終了は、実に残念(「残念」は、もちろんメインの強啓さんや曜日ごとのコメンテーターの声が聴けなくなったことも同じです)。

 しかし北丸さんは、その後もツイッターでほぼ毎日、コメントを続けている。北丸さんのフォロワーからのコメント告知で知ったのが、北丸雄二訳『LGBTヒストリーブック――絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』(サウザンブックス社)だ。

「子ども向け」の衝撃とありがたさ

原著をしのぐような装丁。イラストは、しんちけんろうさん、デザインはatelier yamaguchi(山口吉郎さん、山口桂子さん)=写真提供・サウザンブックス社拡大ジェローム・ポーレン著、北丸雄二訳『LGBTヒストリーブック――絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』(サウザンブックス社)。原著をしのぐような装丁。イラストは、しんちけんろうさん、デザインはatelier yamaguchi(山口吉郎さん、山口桂子さん)=写真提供・サウザンブックス社
 原題は《Gay & Lesbian History for Kids:The Century-Long Struggle for LGBT Rights, With 21 Activities》、2016年の刊行である。著者ジェローム・ポーレンは、本書の紹介によれば「独立系出版社シカゴレビュー出版の編集長」で、「人権運動としてのLGBT運動の子ども向けの本がないことに気が付いたため、本書を執筆」したという。そう、本書が衝撃的なのは「for Kids」なのです。

 だが内容は、とても濃い。目次を紹介すると、<第1章:1900年まで―歴史をざっとおさらい>、<第2章:1900年〜1930年代―運動の始まり>、<第3章:1940年代〜1950年代―暗闇の中で>、<第4章:1960年代―クローゼットから出て>、<第5章:1970年代―街へ出よう>、<第6章:1980年代−エイズと保守の巻き返し>、<第7章:1990年代―揺り戻し、そして勝利>、<第8章:2000年〜現在―いまよりすべてがよくなるさ>。……かくも詳細な「LGBTの歴史」が「子ども向け」に書かれたことに、大抵の人が驚くだろう。

 しかし本書を手にすれば、多くの人は、(少しは)知っていたつもりの「アメリカの姿」が、まったく異なる視野で広がっていくことに、まず戸惑い、やがて心を揺さぶられるにちがいない。なぜなら「LGBTの歴史」は、「差別」されてきた特殊な人々の列伝ではなく、普遍的な「人権」思想の根本、すなわち「人であること」の「誇り」とは何か、という問いかけであり、それを繰り返し学び直すことに気づくからである。今や全ての「差別」は決して、他人事ではない。

 だからこそ、(人種・出身の差別などと同様に)様々な偏見が培養される前に、子どもが本書から学ぶ意味は大きい。一方、本書が「はじめに」で記すように、「子ども向け」に重要なことは「わかりやすさ」であり、その条件として不可欠なのは、「親しみやすさ」と「リアリティ」だ。

 もちろんこれは、子どもだけのものではない。むしろ、両者の具体例である膨大な人名と逸話・事件は、大人をこそ、鍛え直してくれるかもしれない。なぜなら、子どもには個別の不思議なオハナシの集積にしか見えなかったとしても、大人には(それが未知の人・事でも)思いあたることが少なくないからだ。知識と知識が結び直され、新たな連環になってゆく。皮相的かつ皮肉っぽく「そうなの?……」ではなく、「そういうことだったのか!」と、素直に「わかりやすさ」に感謝したくなる。

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筆者

松澤 隆

松澤 隆(まつざわ・たかし) 編集者

みすず書房で出版営業、表現研究所(現・小学館クリエイティブ)で編集全般、春秋社で書籍編集に従事し、その後フリー。企画・編集した主な書籍は、佐治晴夫『からだは星からできている』『14歳のための時間論』、小山慶太『星はまたたき物語は始まる』、鎌田浩毅『マグマという名の煩悩』、立川談志『世間はやかん』など(以上すべて春秋社刊)。