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LGBT運動の歴史を知る「子ども向け」の本

L・G・B・Tと向き合い、大人も共に歩むための回路

松澤 隆 編集者

「コラム」の魅力と「脚注」を入れない工夫

 しかし、疑問が2つほどあった。そこで、邦訳した北丸さんに実際にお会いして、お尋ねしてみた。もちろん内容の適否についてではない。

 まず、「コラム」はすべて原書由来なのかということ。本書には、図鑑で見かけるような、数ページごとの囲み「コラム」がある。トピック的な人物を紹介する《LGBTヒーロー》や、文脈にちなんだ一種の工作・モノづくりを提案する《やってみよう》というコーナーである。

 図鑑や1冊モノの事典的な児童書の編集経験者ならお分かりの通り、メインのテーマを補完するこうしたコラムは、ページのアクセントであり、リズムを形づくる。うまくまとめるのは、スペースとのバランスが絶対条件だから、意外と難しい(読む方は楽しいけど)。

コラムの比較。原著は、3分の2ページを使って文字も大きいが、邦訳は、2分の1ペーに文字を小さくしてコンパクトに収めている。それにしても、もしブティジェッジが、ホワイトハウス入りしたとしても、「最初」ではなかったかもしれない拡大コラム「最初のゲイの大統領?」の比較。原著(上)は、3分の2ページを使って文字も大きいが、邦訳(下)は、2分の1ページに文字を小さくしてコンパクトに収めている。それにしても、もしブティジェッジが、ホワイトハウス入りしたとしても、「最初」ではなかったかもしれない
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 もう1つの疑問は、翻訳編集の宿命であるページの増加だ。それを避けるため抄訳した箇所はあったのかどうか。米国のネイティブの子には、ある程度の常識の前提から話せても、日本人向けにそのまま訳し切れるものなのか。というのも、この本には「脚注・後注」が、一切ない……。

 北丸さんは、イメージ通りの柔らかい物腰の方だった。一方で、こちらの質問の意図を確かめる眼光は鋭かった。1つめの疑問はイエス。原書のコラムは全て訳出したとのこと。2つめの疑問はノー。一切、抄訳はしていない。注が必要とされるような箇所であっても本文に包摂し、本文が過剰になるような場合は、新たにコラムを設けたとのこと。

原著と、翻訳した『LGBTヒストリーブック』を手にする北丸雄二さん拡大原著と、翻訳した『LGBTヒストリーブック』を手にする北丸雄二さん=撮影・筆者
 丁寧に答えてくれた北丸さんに、敬意を新たにした。世には、一義的な情報発信者として優秀であっても、書籍という枠組みの制約や効果に無頓着な人もいる。北丸さんは、本書の内容を深く理解し訳出しうる最適任者であるのみならず、その内容を読者眼線で一冊の本にセットアップするために不可欠の人であったことを、思い知らされた。

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筆者

松澤 隆

松澤 隆(まつざわ・たかし) 編集者

みすず書房で出版営業、表現研究所(現・小学館クリエイティブ)で編集全般、春秋社で書籍編集に従事し、その後フリー。企画・編集した主な書籍は、佐治晴夫『からだは星からできている』『14歳のための時間論』、小山慶太『星はまたたき物語は始まる』、鎌田浩毅『マグマという名の煩悩』、立川談志『世間はやかん』など(以上すべて春秋社刊)。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです