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 小学校高学年から中学1年にかけての、ちょうど大人へ向けて背伸びを始める頃、悪ガキに憧れる仲間うちで、悪ガキを気取って、「俺だって知ってるぞ」と口ずさんでみせて以来、いまだに忘れ得ぬ歌がある。

♪身から出ましたサビゆえに、いやなポリ公にパクられて・・・

 俗称「練鑑ブルース」である。

♪身から出ましたサビゆえに

拡大空から見た東京・練馬の東京少年鑑別所=1975年6月16日

 「ポリ公」が警官の蔑称であることは知っていたが、「身からでた錆」の意味などわかろうはずもなく、「ねりかん」もてっきり「練」馬にある少年向けの「監」獄の略称だと思い込んでいた。

 後になって、「練鑑」とは、練馬区にある東京少年鑑別所の俗称だと知るが、当時は少年院と鑑別所との区別もついておらず、「悪さ」をするとそこへ送られるというていどの理解だった。(なお、鑑別所は、法律にふれる「悪さ」をして逮捕・拘留された少年が4週間ほど収容される施設。成人の未決の容疑者の拘置所のようなものである。その間、家庭裁判所の審判をうけ、釈放される者と少年院に送致される者とに分かれる)。

 「おれのダチの兄貴はよう、練鑑帰りなんだぜ」といって、彼らの武器はメリケンサックと自転車のチェーンとジャックナイフ、究極のワザは安全カミソリの刃を1枚は人差し指と中指、もう1枚は中指と薬指の間に挟んで、これで顔面をえぐると傷口が縫合できないので決定的なダメージを与えることができる、などと仲間の一人が見てきたような話をとくとくと語ると、それを聞いた別の仲間が他所で自慢げに吹聴する――そんなたわいのない〝悪ガキごっこ〟をしていたのだが、近所の空襲を受けたままの「お化け屋敷」で不良グループが件の武器で決闘したというのも結局は「噂話」で、「モノホンの練監帰り」にはついに出会ったことはなかった。

 「モノホンの練鑑帰り」からは、おまえらみたいな山の手のボンボンにうたわれてたまるかと言われそうだが、そこには、親や学校というタガからはみ出した彼らに対する「負い目」が入りまじった「憧れ」があったからなのかもしれない。なぜか不思議なことに、私も同窓生の多くも、長じてなお「練鑑ブルース」を諳んじることができるのは、「やんちゃ」に憧れながらそれを回避してここまで生き永らえたことへのほろ苦い感懐のなせるワザなのかもしれない。

 というわけで、古稀をすぎた今でも口ずさむことができる「練鑑ブルース」だが、もともと「詠み人知らず」で様々なバージョンがある。今回、改めて調べてみて私の記憶がかなりいい加減だとわかった。以下に、資料によって「正調」だと同定できた歌詞を4番まで掲げる。

♪人里離れた塀の中
この世に地獄があろうとは
夢にも知らない娑婆の人
知らなきゃ俺らが教えよう

♪身から出ました錆ゆえに
厭なポリ公にぱくられて
手錠かけられ意見され
着いた所は裁判所

♪鬼の検事に蛇の判事
付いた罪名は○○罪(「アオカン」などそれぞれが自らの罪状を入れる)
廊下に聞こえる足(げそ)音は
地獄極楽分かれ道

♪青いバスに乗せられて
揺られ揺られて行く先は
その名も高き練馬区の
東京少年鑑別所

歌:「練鑑ブルース」
時:昭和34年(1959年)
場所:東京都練馬区

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筆者

前田和男

前田和男(まえだ・かずお) 翻訳家・ノンフィクション作家

1947年生まれ。東京大学農学部卒。翻訳家・ノンフィクション作家。著作に『選挙参謀』(太田出版)『民主党政権への伏流』(ポット出版)『男はなぜ化粧をしたがるのか』(集英社新書)『足元の革命』(新潮新書)、訳書にI・ベルイマン『ある結婚の風景』(ヘラルド出版)T・イーグルトン『悪とはなにか』(ビジネス社)など多数。路上観察学会事務局をつとめる。

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