府中市美術館「ふつうの系譜」展から
2020年04月16日
新型コロナウイルスの感染防止のために家に閉じこもり、心が疲れてきた。そんな時、「美しい絵」に触れてみませんか。江戸の絵師たちが技術を尽くして描いた「きれいなもの」を集めた府中市美術館の「ふつうの系譜」展(5月10日まで、現在は閉館中)から、穏やかでやさしい美の世界を担当学芸員、金子信久さんの案内で紹介するミニ連載を始めます。文中の〈 〉内は金子さんの解説です。
思わず「かわいい!」と声を上げたくなります。
円山応挙(まるやま・おうきょ、1733~95)が描いた子犬の絵です。前期(4月12日まで)だけの展示で、残念ながら、今回はもう直接見ることはかないませんが、最近見つかった作品(個人蔵)で、展覧会初登場でした。
〈応挙は多くの子犬の絵をのこしました。今でも毎年のように「新発見」があるんですよ〉
それはびっくり。そんなにたくさん描いたんですか?
〈それだけ、ほしがる人が多かった、ということなんです。応挙は、京都の人気ナンバーワン絵師でした。画料も高いけれど、裕福な人々は熱心に買い求めました。美術品というのは長い間、権力者の手元やお寺、神社などで大事にされるものでしたが、江戸時代になると、絵を買うことが町人にも広がります。そういう人々の「かわいらしさ」を楽しむ感性に応える作品も増えていったと考えられます〉
展覧会の図録には〈「もふもふ」は世の中を変える〉と題する金子さんの論考が載っています。江戸中期の「本物みたいな動物の絵」の登場をとらえて、〈「もふもふ」は、もしかしたら、それまで絵にとんと興味のなかった人たちまで惹きつけ、更には絵画好きの人口さえふやしたかもしれない、などという想像まで膨らむ〉と書かれています。
かわいい動物は、江戸時代も大人気だったんですね。
そんな「もふもふ」からもう一点、森狙仙(もり・そせん、1747?~1821)の猿の絵です。
これは、リアル。さわったら、毛の柔らかさと同時に、その下にある筋肉の弾力や、骨や関節の硬さも感じられそうです。
本当に会話しているような表情ですね。ところで、お猿さんたち、蜂と戯れているように見えますが、刺されないのでしょうか。
〈猿と蜂というのは、中国から伝わった古典的な組み合わせです。描き方は近代にも通じるようなリアルさですが、画題は伝統にのっとっているんですね。でも、言われてみると確かに刺されそうな気もします。ちょっと心配ですね〉
次回は4月19日に公開予定です。
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