真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター
大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
作品を創る時“目が合う”ということを大切にしている
※エン*ゲキ#05『– 4D –imetor 』は一旦全公演中止になりましたが、池田純矢さんの作品に対する思いをお伝えさせていただきます。
池田純矢さんが作・演出を手がけるエン*ゲキシリーズの5作目、『– 4D –imetor』は、生駒里奈さんと池田純矢さんのW主演。本作は量子力学をテーマに繰り広げられる謎解きミステリーで、四次元世界と超能力を“イリュージョンマジック”で見せることでも話題になっていました。
作・演出、そして主演を務める池田純矢にお話を伺い、今作品の誕生秘話や主演をやることになった経緯、役についてなど、作・演出をされているからこその視点で、今回の作品や演劇について語っていただきました。
――今回の作品を創ったきっかけは?
十年ぐらい前に小説を書いて投稿していたのですが、その時にいろんなプロットを作っていたんです。こういう話を作ろう、こんな話はどうだろうと。そのうちのひとつが今回の原形になる作品だったんです。テイストは少し違っていてあまり舞台向きではない作品だったんですけど、当時は最後まで書ききれずに途中で諦めて残骸みたいに残っていたものを十年ぶりに見つけたんです。十年も放置していた作品にたまたま出会うっていうのも縁だなと思って。
――たまたま見つけたんですね。
そうなんです。これまで作ってきたプロットをなんとなく見ていたら、あれ、これ何だっけ? そういえば書いたなと。自分が作品を創る時に、“目が合う”ということを大切にしているんですね。役者さんや作品もそうだし、何か面白いことをやろうと思った時に、パッと目が合う瞬間があって、作品も生まれたがっているんじゃないかという感覚になるんです。この作品は10年経って、今やっと自分の元に帰ってきたのかなと思えて、その運命的な感じも素敵だったから、書けるかわからないけど取り敢えず書いてみようと進めたら、これいけるなと。
――10年前って10代ですよね?
そうです。16、7歳ぐらいの時に一番書いていたんですよ。
――今回の物語にある四次元といったことなども書いていたんですか?
四次元とか量子力学ですね。超能力っぽいことも書いていたかな。
――そういうことに興味があったんですね。
学問が好きなんです。学ぶこと、知ることがすごく好きで、あらゆる学問って、ひとつを極めるのに一生かかりますし、また一生かかっても極められないものだとも思うんですね。その先人たちの費やしてきた時間が積み重なって学問として存在しているということに、とてもロマンを感じるんです。
――それを紡いでいきたい? それとも単純に知りたい?
知りたいですね。紡いでいくとなると一生を捧げないと向こう側にはいけないから、自分ではない誰かがきっと紡いで行ってくださると思います。でも、この時代に生きているからこそ、その先人達が築いてきたものを自分の中に入れたいという願いがすごくあるんです。
――なるほど。
今回の量子力学というテーマはすごく大変でしたし、その入り口に立ったか立っていないかというぐらいのレベルです。その道を極めた人からすると、「何が量子力学だ、入り口にも立ってないだろう」って言われるかもしれない。でも、普通に生きていたら知るはずのなかったことをエンターテインメントにすることによって、みんなが入り口に立つことができて、そこからさらに思考が深く広がればいいなって。それは自分がエンターテインメントを作るひとつの意味でもあるんです。
――イリュージョンマジックというのは、LEDを使ったり?
いえ、映像とかプロジェクションマッピングとかは今回は使わないんです。アナログでいきます! アナログこそ最高の最新技術だと僕は思っているので。すべてに当てはまるかどうかは分からないですけど、映像を使うなら映画の方が良いと思うんです。
――確かに。
最新技術でできないことを、人間の脳内では何でも可能にしてしまうんです、想像力というひとつの武器で。それを最大限に生かすためにはアナログじゃないとダメなんですよね。映像は限定してしまうんです。
――想像力を使って欲しい?
そうですね、映像よりも鮮明に超常現象を描けると思うんです。
――そこで描かれたものは、観た方それぞれのものですし。
それが舞台の魅力だと思いますし、今どこを見るかは自分で決めることだから。映像はカット割りされているので、どうしても誰かの視点になってしまいます。僕は舞台の空間がギチギチに埋まっている感じがすごく好きなんです。極端ですが、最初から最後まで誰ひとり見なくても良いんです。ずっと目を瞑っていても良いし、照明だけ見ていても、セットだけ見ていても、どれも正解なんです。
――でもやはり作者として伝えたいことは作品の中にあると思うのですが。
当然それがないと物語は生まれないので一行一句に意味はあるし、伝えたいことはあります。でも、僕の持論なんですけど、エンターテインメントではそこは語らない、というのが僕は好きです。もちろん一生懸命創っているから、そこに込めた思いやそこにたどり着いた経緯は話したくはなりますし、僕も話すのが嫌な人間でもないです。テーマパークのジェットコースターで例えると、この傾斜は何度でそれは人間がこういう風に感じるからこの傾斜なんだよと言われても、へぇーとしか思わないじゃないですか。でも自分が体験してすっげぇって思えたらそれで良いんです。あくまでも娯楽でありたいというのはそこにあって、伝えたい思いはこちら側が芯に持っていればいいだけの話。届かなくても正解なんですよね。その人には届かなかったというのもひとつの事実だから。そこも含めてエンタメを楽しんでいただきたいですし、ただ単純にこの作品を楽しんでいただきたい。そこに込めたテーマなんてものは置いといて。
――お客さまがどんな風に感じたかは気になったりするんですか?
それはめっちゃ気になります、だからすっごいエゴサーチします(笑)。そして、あぁうれしい、あぁ悔しいって、いろいろ考えます。
――うれしいと思うのは伝わった時?
そうだったり、自分が思いもよらない気持ちを受け取ってくれた時はうれしいです。酷評があったとしても僕はうれしい。そんなにしっかり見てくれていたんだって。こちらが想定していたパートでは響かず、むしろそこが気になったんだ、そういう見方があるのかって、いろんな感想を読むことが好きですね。
◆公演情報◆
エン*ゲキ#05『– 4D – imetor』
※詳細は公式サイトをご確認ください。
公式サイト
作・演出:池田純矢
出演:生駒里奈×池田純矢
玉城裕規/松島庄汰 田村心 新子景視
藤澤アニキ 北村海 町田尚規 前田りょうが 相田真滉
阿南健治
〈池田純矢プロフィル〉
2006年「第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で準グランプリを受賞しデビュー。俳優としてドラマ、映画、舞台で活躍するほか、2015年に自身が作・演出を担う企画「エン*ゲキ」シリーズを立ち上げ、脚本家・演出家としてのキャリアをスタート。2018年には「LADY OUT LAW!」で脚本提供するなど、クリエイターとして外部作品に参加している。
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