勝部元気(かつべ・げんき) コラムニスト・社会起業家
1983年、東京都生まれ。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱う。著書に『恋愛氷河期』(扶桑社)。株式会社リプロエージェント代表取締役、市民団体パリテコミュニティーズ代表理事。所有する資格数は71個。公式サイトはこちら
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日本の政治は「戦力の逐次投入」ばかりやって来た
前回の記事「新型コロナ戦、安倍総大将の下では「外出やめよう!」と思えない」では、外出をあえて続ける「フリーライダー=タダ乗り」推進に拍車をかけているのは政治であることに触れました。ですが、それは政治だけに限りません。マスメディア(とりわけ影響力が大きいTV報道)にも責任があります。
マスクやトイレットペーパーの買い占めについて、ゲーム理論の専門家である安田洋祐氏が、買い占めをマスメディアが報じることによって「ゲーム」の“号砲”が鳴らされ、さらなる買い占め競争を誘発していると指摘していますが、これと同様のことが行動制限の問題でも起こっています。
つまり、メディアが「自粛しない人たち」について報じれば報じるほど、「自粛要請に従っていない人がたくさんいるのなら自分もまだ外出を続けても大丈夫だろう」と、「赤信号みんなで渡れば怖くない」という心理に誘導している面もあると思うのです。不要不急の外出だと取材班にバレる可能性は限りなく低いですし、見つかっても身元が晒されるわけではないので、抑止力の効果は限定的でしょう。
不要不急の外出行動を叩くのは、自粛で鬱憤の溜まった大衆の正義感を刺激してある種の「快楽」を与えられるため、多くの番組がこぞって報じているのかもしれません。ですが、感染拡大対策には意味が無いどころかむしろ逆効果です。
買い占め報道に関しては「マスメディアが誘発するな!」という批判が大きくなり、最近は落ち着いたようですが、行動制限の問題で同じ轍を踏んでいるように感じます。メディアにはそろそろこのパターンの危うさを学んで欲しいものです。
その一方で、この「フリーライダーになった者勝ち」という現象が生じるのは、安倍政権やマスメディアのミスリードだけではありません。
というのも、制度が中途半端であるがゆえにフリーライダーを発生させている問題はほかにも数多く存在しており、「フリーライダーに優しい社会」を築くのは“日本のお家芸”だからです。
たとえば、厚生年金の「加入逃れ」問題はその典型例でしょう。厚生年金への加入は全ての法人事業所と従業員5人以上の個人の事業所に原則義務付けられているにもかかわらず、加入を逃れる事業所は少なくありません。最近の指導強化で減少しているものの、今なお加入逃れの疑いは約40万事業所(2018年9月時点)もあるそうです。真面目に払う事業所は大きく損をしているのです。
ほかにも、労基法を守らないブラック企業の問題、ハラスメントの加害者の多くが法的に咎められない問題、路上喫煙が禁止されていても平然と喫煙している人たちがいる問題、怪しいサプリやダイエットの広告が景品表示法の網に引っかかっていない問題等、このフリーライダー量産問題は枚挙にいとまがありません。
このように、真面目だったり同調圧力に弱いマジョリティーが、たとえ緩い規制であってもそれに従うために、自分だけ免れようとするフリーライダーが結果として得をする社会構造が、この国のありとあらゆるところに存在しています。