徳留絹枝(とくどめ・きぬえ) ブログ「ユダヤ人と日本:理解と友情の架け橋のために」管理者
シカゴ大学で国際関係論修士号取得。サイモン・ウィーゼンタール・センターのアドバイザー。著書に『旧アメリカ兵捕虜との和解:もうひとつの日米戦史』、『忘れない勇気』、『命のパスポート』(エブラハム・クーパー師と共著)など。日本で知られないイスラエルの横顔に関する本を執筆中。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない米国では、多くの人々が不必要な外出を控えて自宅で過ごすことを求められているため、通常なら多忙な友人たちと逆にゆっくり話す機会に恵まれている。先日は、サイモン・ウィーゼンタール・センター副館長でGlobal Social Action Agenda責任者のエブラハム・クーパー師と、Zoomで話し合った。
私たちの会話は当然新型コロナウイルスのことになり、お互いの家族が置かれた状況などについて語り合った。そして話題は、感染拡大に従い増えてきたアジア系市民を標的とする事件にも及んだ。実際この1カ月で、関連する多くの出来事が起こっていた。
トランプ大統領は3月18日のホワイトハウス記者会見で、「なぜ新型コロナウイルスを“The Chinese virus(中国ウイルス)”と呼び続けるのか。人種偏見だという声もある」と記者に問い詰められ、「人種偏見などではない。ウイルスが中国から来たからで、それを正確に言いたいだけだ」と突っぱねた。さらにその前の週に中国外務省報道官が、「ウイルスは米軍によって武漢に持ち込まれたのかもしれない」とツイートしていたことにも触れ、「あり得ない。中国が発信地だ」と宣言した。
しかしトランプ大統領は翌週3月23日、「アジア系米国人コニュニティーを守ることは重要だ。ウイルス拡散はいかなる意味においても彼らの責任ではない。彼らはウイルス撲滅のために我々と緊密に働いている。我々は共にこの戦いに勝つ」とツイートした。
3月中旬、アジア・太平洋諸島系米国人(AAPI)団体が合同で監視サイト“Stop AAPI Hate”を立ち上げ、アジア系に対するヘイトクライムをモニターし始めた。ハラスメントや暴力を受けた人々が、英語だけでなく中国語・韓国語・タイ語・日本語・ベトナム語などで通報できる彼らのサイトには、3月中旬から4月初旬の2週間で1135件の新型コロナウイルス関連ヘイト事件が報告されたという。
それらは、「中国に帰れ」などの言葉の嫌がらせから、消毒液を吹きかけられたり突き倒されたりといった暴力行為、店舗への落書き、ガラス破損などの建物損壊と多岐にわたる。テキサス州では、19歳の男性が幼児2人を連れたアジア系家族に「ウイルスを振り撒いている」としてナイフで襲いかかった。それを受けてFBIは、新型コロナウイルス感染拡大に伴いアジア系市民へのヘイトクライムは今後全米で増える可能性があり、アジア系米国人社会を危険にさらす、と警告した。
3月25日には、アジア系特に中国系市民が多く住むニューヨーク市クイーンズ地区選出グレース・メン民主党下院議員が、「Condemning all forms of anti-Asian sentiment as related to COVID-19(COVID-19に関するあらゆる形態の反アジア感情を非難する決議)」と題する決議案を下院に提出した(COVID-19は世界保健機関(WHO)が定めた新型コロナウイルスの名称)。
決議案は、米国総人口の7%を占める2300万のアジア・太平洋諸島系米国人の多くが医療・防犯・消防・運輸・食品販売などCOVID-19との闘いの第一線にいること、WHOがこのウイルスを特定地域に結び付けて汚名を着せるべきでないと発言していることに言及したうえで、政府関係者はアジア系市民を標的としたあらゆる形のヘイトクライムを糾弾し、連邦政府と州・地方政府が協力してそれらを速やかに捜査し記録することを求めている。