2020年04月21日
新型コロナウイルス禍、パリの“軟禁生活”は「他人の命を守るため」
新型コロナでパリ首都圏から120万人が大移動、ウイルスと差別も拡散
フランスでは3月17日正午より全国民の自宅待機措置が始まったが、早いもので1カ月を超えた。4月13日にはマクロン大統領が国民向けの演説を行い、5月11日までの自宅待機措置延長を発表。この日からは段階的に学校が再開されるとしたが、仏医師連盟代表は「無用な感染リスクを引き起こす」と呼びかけるなど、疑問の声も根強い。
日常に戻れるのはいつの日になるかわからぬままであり、光が見えぬトンネルの中にいる気分の国民も多いだろう。この奇妙な軟禁生活の現状を、市民目線で中間報告したい。
まず、基本的に1日に最大一度「必要な外出」しかできないのは、当初から変わらない。つまり、テレワークできない通勤、食料買い出し、ジョギングなどの運動、受診などの健康上の理由、子どもをあずけるといった家族の事情、介護などが必要な外出である。
最近では、「行政または司法当局からの召喚」や「社会貢献活動への参加」といった項目も追加された。運動は「自宅から1キロ以内で一人」だが、散歩なら同居人と一緒に歩いてもよい。犬の散歩は必要な外出とされるが、ウサギに紐をつけて散歩した人はしっかり罰金刑をくらっていた。
外出時は「例外的外出証明書」を必ず持参する。当初は指定の用紙をプリントアウト(または手書きもOK)して携帯しないといけなかったが、4月6日からはスマホ対応版もできた。だが、このエコの時代に3週間も国民に紙を大量消費させていたわけで、デジタル化の対応の遅さは残念であった。
持病を持つ人やハンディキャップを持つ人、高齢者らは何日も全く家から出られない人も多い。そのような感染リスクが高い人々には、同じアパートの住民が買い物をして届ける動きも活発になった。手伝いをしたい人は直接声をかけるほか、「お手伝いします」という言葉と電話番号をアパートの共有部分に貼るケースが目立つ。
政府も3月23日より、自宅待機措置下で求められるボランティア活動を促すサイトをオープン。ボランティア志願者と、人手を探す非営利団体とを結びつけるプラットフォームである。ここで扱うサービスは、「貧困者への必要最低限の食料や衛生用品の配達」「医療関係者などの子どものあずかり」「一人暮らしの高齢者や病人、ハンディキャップを持つ人とのコミュニケーション(電話やビデオ通話、メール)」「弱者のための買い出し」「インターネットを使った家庭教師」だ。
筆者はパリ南部の住宅街に住んでいるが、だいたい夕方頃に買い物か散歩で外に出る。この時間帯はかなりの人が路上にいることが多く、一見、いつもとあまり変わらぬ風景にも見える。だが、フランス人でも当たり前のようにマスクをするようになったのは、以前と全く違う。それに、たまに通るバスは乗客がいない“幽霊バス”(バスは細々と運行しているが、遠出する人は少ないため)なので、やはり非日常だと思わされる。
近所のカフェ・レストランは、自宅待機措置後すぐにテイクアウトのピザ屋に変わり、かえって繁盛している。すぐに仕事内容を切り替え生きていく姿には逞しさを感じた。
入場に人数制限を設けるスーパーや食料品店の前には、長い行列が伸びていることが多い。だが、急ぎの用事がないからか、みな1メートル以上の間隔を開けておとなしく並んでいる。スーパーの入り口には消毒ジェルが置いてある。店によっては店員が直接、手にジェルをかけてくれることもある。
外出のルールは地域により微妙に異なるが、パリでは4月8日から「ジョギングを含む外での運動が日中(10時から19時まで)禁止」という特別制限が出た。これは人々の活動時間を散らし、感染リスクを減らす意味があったが、いざ実施されると、許可された時間帯で市北東のサン・マルタン運河沿いにランナーがかえって集中するという現象が起きた。こちらは逆効果の可能性もあるが、現在のところパリ市長は様子見をしている段階である。
また、「必要な外出」という概念はかなりくせ者だ。人間社会は微妙な事情が絡み合って存在しているため、「必要」の線引きが難しいのである。
例えば、筆者には高校生の娘がいるが、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください