府中市美術館「ふつうの系譜」展から
2020年04月26日
家にこもりきり、食料の買い物などわずかな外出にも緊張する、そんな日々が続いています。少しでも心が休まるような「きれいな絵」を見ていただこうと始めたシリーズの3回目です。府中市美術館の「ふつうの系譜」展から、学芸員の金子信久さんによる解説でご紹介します。展覧会は5月8日に再開する予定でしたが、閉館期間が延び、残念ながら閉幕が決まりました。今回はもう直接見ることができなくなってしまった作品を、「論座」でお楽しみください。〈 〉は金子さんによる解説です。
うらうらとした柔らかな陽光が山と川を包んでいます。京都でも有数の景勝地「嵐山」で桜が満開です。今年はお花見をするのが難しかったけれど、せめて絵の中の春景色をゆったり味わいたいですね。描いたのは原在中(はら・ざいちゅう、1750~1837)、江戸後期の人です。
〈宮中のオフィシャルな仕事をしていた「土佐派」(前回紹介)に通じる、穏やかな美しさが特徴です。でも、1回目の「もふもふの子犬」を描いた円山応挙の影響も受けていて、細かい描写は土佐派とは違う、新しさを感じさせる個性を発揮しています。一見、平凡なようですが、よく見ると描写の精密さがわかると思います〉
ホント、桜の花一つひとつ、樹の一本一本が丁寧に描かれていますね。
〈桜をただふわっと塗るのではなくて、細かい点を重ねて調子の変化を出しています。まるで点描画のようですね。奥の山の松も一本ずつ描いています。実際にはこんなふうには見えないと思いますが、遠くからは緑のかたまりに見えても、本当はこうなのだという「本物らしさ」へのこだわりなのかもしれません。川の水面の波の描写も繊細です。こうした徹底した細かさで、奥行きのある画面全体を構成する感覚は、江戸の絵画ではとても珍しい。そうした「本物に近づけようという強い意識」と「きれいさ」が両立しています〉
原在中とは、どんな人ですか?
〈実は、まだあまり研究が進んでいない人物なんです。京の酒造家に生まれ、直接指導を受けたかどうかは分かりませんが、応挙に学んだのは確かです。風景画を得意とし、息子や弟子を育てて「原派」を作り、宮中や寺社などの仕事で活躍しました〉
「起業家」でもあったんですね。
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