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疲れた心にきれいな絵を④ 安らかさの象徴、鶉になごむ

府中市美術館「ふつうの系譜」展から

山口宏子 朝日新聞記者

 府中市美術館の「ふつうの系譜」展(閉幕が決定)から、目に、心に、柔らかく届く絵を紹介するシリーズの4回目です。〈 〉の中の学芸員、金子信久さんによる解説とともにお楽しみください。

地味な鳥がなぜ愛されたか

拡大土佐光起『菊鶉図』(部分、敦賀市立博物館蔵)
 

 鶴とか孔雀(くじゃく)とか鷹とか、きれいな色やカッコいい姿の鳥がたくさんいるのにこれは……鶉(うずら)。丸くてかわいいですが、なんとも渋い。大辞林で「うずら」をひくと「体長15センチほど。地味な黄褐色で一面に縦斑がある」と説明されています。辞書まで「地味」だと言っている鳥ですが。

 〈鶉はとても人気のあった画題なんですよ。2回目で宮中の公式絵師集団「土佐派」を紹介しましたが、鶉は土佐派の十八番です。数年前、土佐派の研究者に「最近、新しく発見された作品でどんなものがありますか」と尋ねたら、「鶉ばっかりです」という答えが返ってきました。それくらい、鶉の絵が多いのです〉

 それは意外です。どうしてですか?

 〈鳴き声の美しさでも人気のあった鳥ですが、画題としては、やはり中国の影響が大きいです。中国では多くの鶉の絵が描かれてきました。その中には「安和図」と名付けられたものもあり、安らかさを意味する鳥として好まれてきたのです。中国語で「うずら」を表す文字が「安」と同じ「an」と発音されることからそうなったとも言われています〉

 安らかさ――いま、一番ほしいものですね。そういわれると、穏やかな画面を通して、滋味がじわじわと浸みてくるような気がします。土佐光起(とさ・みつおき、1617~1691)の絵は、菊の花の大きさに比べて、鶉の小ささが際立ち、ほほえましいですね。

拡大土佐光起『菊鶉図』(17世紀後半、85.4×35.6センチ、敦賀市立博物館蔵)


筆者

山口宏子

山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者

1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学・日本大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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