府中市美術館「ふつうの系譜」展から
2020年04月29日
府中市美術館の「ふつうの系譜」展(閉幕が決定)から、目に、心に、柔らかく届く絵を紹介するシリーズの4回目です。〈 〉の中の学芸員、金子信久さんによる解説とともにお楽しみください。
鶴とか孔雀(くじゃく)とか鷹とか、きれいな色やカッコいい姿の鳥がたくさんいるのにこれは……鶉(うずら)。丸くてかわいいですが、なんとも渋い。大辞林で「うずら」をひくと「体長15センチほど。地味な黄褐色で一面に縦斑がある」と説明されています。辞書まで「地味」だと言っている鳥ですが。
〈鶉はとても人気のあった画題なんですよ。2回目で宮中の公式絵師集団「土佐派」を紹介しましたが、鶉は土佐派の十八番です。数年前、土佐派の研究者に「最近、新しく発見された作品でどんなものがありますか」と尋ねたら、「鶉ばっかりです」という答えが返ってきました。それくらい、鶉の絵が多いのです〉
それは意外です。どうしてですか?
〈鳴き声の美しさでも人気のあった鳥ですが、画題としては、やはり中国の影響が大きいです。中国では多くの鶉の絵が描かれてきました。その中には「安和図」と名付けられたものもあり、安らかさを意味する鳥として好まれてきたのです。中国語で「うずら」を表す文字が「安」と同じ「an」と発音されることからそうなったとも言われています〉
安らかさ――いま、一番ほしいものですね。そういわれると、穏やかな画面を通して、滋味がじわじわと浸みてくるような気がします。土佐光起(とさ・みつおき、1617~1691)の絵は、菊の花の大きさに比べて、鶉の小ささが際立ち、ほほえましいですね。
〈光起の鶉の評判を伝える、こんな逸話があります。鶉の鳴き声を競う「鶉合わせ」という遊びがあるのですが、ある時、御所で行われた「鶉合わせ」で一等になった鶉を見ると、それは光起の描いた絵だった――。それほどの迫真性があったのでしょう〉
〈光起は、中国絵画の生き物の精密な描写をよく見て、やまと絵に採り入れたと考えられます。それを引き継ぎ、土佐派は代々、鶉を描いてきました。中国絵画によくある粟との組み合わせを描いた土佐光貞(とさ・みつさだ、1738~1806)は光起から数えて四代目の子孫です〉
植物と鳥の組み合わせは絵の定番ですが、次の松村景文(まつむら・けいぶん、1779~1843)の合歓木(ねむのき)と小鳥は、さわやかな一幅ですね。
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