芸術を殺すのはウイルスではない。「検閲」だ
「ひろしまトリエンナーレ」中止をめぐって
野田邦弘 横浜市立大学大学院都市社会文化研究科客員教授(創造都市論)
瀬戸内海広域アートゾーンの期待が頓挫
広島県がこの秋、県南東部の3都市(尾道市、福山市、三原市)と共同で開催する予定だった芸術祭「ひろしまトリエンナーレ2020 in BINGO(ひろトリ)」の中止が決まった。その問題点を考えてみる。
開催準備が進められてきた「ひろトリ」は、2020年9月12日から11月15日までの会期で、ひろしまトリエンナーレ実行委員会(会長:広島県知事湯崎英彦、副会長:開催3市の市長)が主催、総合ディレクターを中尾浩治氏が務める予定だった。
本展に先立ち2019年にはプレイベントとして尾道の離島百島の空きスペースを使ったアーティスト・イン・レジデンス「ART BASE 百島」など6本の事業が開催された。
瀬戸内海東部では2010年から、離島を中心に瀬戸内国際芸術祭が開催されており、地域へ与えるプラスの効果について高い評価を得ている。これに加え、「ひろトリ」が始まれば、瀬戸内国際芸術祭と連担した瀬戸内海一帯の広域がアートゾーンとなる期待が生まれた。

東京・銀座で「ひろしまトリエンナーレ2020」の企画を発表した実行委員会会長の湯崎英彦知事(左)と総合ディレクターの中尾浩治氏=2019年10月9日
総合ディレクターに就任した中尾氏は、尾道出身で医療機器メーカー・テルモの元会長であると同時に合同会社アート・マネジメント・しまなみ代表である。現代アートにも造詣が深く作品のコレクターでもある(参考:「次世代に届けるアートの価値」 元テルモ株式会社 会長 中尾浩治)。
開催を待ち望まれた「ひろトリ」だが、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、収束の見通しが立たない」ため中止することが4月10日の実行委員会で決定・発表された。