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ステイホーム週間は「スター・ウォーズ」で遥か彼方の銀河系へ!《前編》

MAY THE 4TH BE WITH YOU 5月4日はスター・ウォーズの日

小松﨑友子 観光ブランディングプロデューサー/株式会社iNTO代表取締役

2018年の「スターウォーズの日」のイベント時に掲げられた「MAY THE 4TH BE WITH YOU」のボード(藤井隆史さん撮影)

 5月4日(=May 4th)は、「スター・ウォーズ」の作品中の名言「May the Force be with you.(フォースと共にあらんことを)」にちなんで制定された「スター・ウォーズの日」。【ステイホーム週間】の真っ只中、今年の「スター・ウォーズの日」はどうなるのか? そんなことを考えていたら、今年は「スター・ウォーズの日」始まって以来、初のオンライン開催が決定するというニュースが飛び込んできた(参照)。

 スター・ウォーズファンがオンラインで参加できる様々なコンテンツが公式サイトで多数展開されるとのこと。

 毎年恒例の5月4日(月・祝)午後5時04分に「#フォースと共にあらんことを」を一斉にTwitterに投稿するキャンペーンや、オンラインの会場にアバターとして参加できるなど、いろいろな楽しみ方がある。そんななか、おうちで「スター・ウォーズ」全9作品を一気に観る、という贅沢な時間を過ごしてはどうだろうか(参照)。

 観たことがある人はもちろん、まだ観たことがない人も、「スター・ウォーズ」を観て、遥か彼方の銀河系で《フォース》を感じてみてはいかがだろうか。【ステイホーム週間】のいまだからこそ出来る、「スター・ウォーズ」の壮大な宇宙の旅を、おうちで楽しもう。

なぜこれほどまでに世界を熱狂させたのか

 『スター・ウォーズ/新たなる希望」(1977年)が公開されてから42年。「エピソード9」にあたる『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019年)でついに完結した「スター・ウォーズ」シリーズ。

 「スター・ウォーズ」の世界に惹きこまれ、強い影響を受けているファンは全世界に存在している。

 かくいう私も10才の頃、テレビで観た『スター・ウォーズ/新たなる希望」に感動し、それから年に一度は必ず旧三部作(※1)を観て育った。東京ディズニーランドに行けば「スター・ツアーズ」に乗らずに帰ることはなく、数年前には「スター・ウォーズ」シリーズの音楽を手掛けるジョン・ウィリアムズが、指揮者として登場するボストン・ポップスの「ジョン・ウィリアムズ フィルム・ナイト」のためボストンまで飛んだ。

※1 『スター・ウォーズ/新たなる希望』(1977年)『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980年)『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』(1983年)

 もはや映画の枠を超え「スター・ウォーズ」という新たな世界が生まれたと言っても過言ではない。「スター・ウォーズ」は、なぜこれほどまでに全世界を魅了するのか。

 2005年から「スター・ウォーズ ウェブログ」を運営し、「スター・ウォーズ」情報を発信し続け、2016年、ソーシャルコミュニティサイト「Wikia(ウィキア)」主催の「『スター・ウォーズ』究極のカルトクイズ ウィキア Qwizards<クイザード>」世界大会で優勝した藤井隆史さんに、この一大スペースオペラの魅力について話を伺った。

【注意】この記事には、「スター・ウォーズ」シリーズに関するネタバレが含まれています。

藤井隆史さん

藤井隆史(ふじい・たかし)
2005年からWEBサイト「スター・ウォーズ ウェブログ」を運営。「Wikia」主催の「『スター・ウォーズ』究極のカルトクイズ ウィキア Qwizards<クイザード>」世界大会で優勝。映画ライターとしても活動。

★「スター・ウォーズ メインテーマ」(作曲:ジョン・ウィリアムズ)のファンファーレと共にインタビューがスタート……

こういう世界があるかのようにな夢をかき立ててくれる

――世界中で熱狂的なファンが存在する「スター・ウォーズ」。Qwizards<クイザード>で世界チャンピオンとなった藤井さんご自身はまさにそういった方の代表格とも言えるわけですが、どのようにして「スター・ウォーズ」の世界に惹きこまれていったのでしょうか。

 80年代の後半、幼稚園児の時に映画好きな父と一緒に『帝国の逆襲』(1980年)のビデオを観たことが、「スター・ウォーズ」との最初の出会いでした。オリジナル・トリロジー(旧三部作)の最終章『ジェダイの帰還』が公開されたのは1983年(公開当時の邦題は『ジェダイの復讐』)なので、それから数年経った後ということになります。宇宙を舞台に、たくさんの宇宙船、エイリアンやロボットが登場してきて、とにかくワクワクしながら見ていたという記憶があります。

 当時、千葉県浦安市に住んでいたのですが、タイミングがいいことに、初めて「スター・ウォーズ」を観てから間もなく、近所にある東京ディズニーランドに「スター・ツアーズ」がオープンしたんです。1989年のことでした。映画で見た世界を体験出来るアトラクションによって、さらに「スター・ウォーズ」の世界に惹きこまれていきました。

 その後、オリジナル・トリロジーの「特別篇」が公開される1997年まで、「スター・ウォーズ」シリーズの映画は公開されなかったのですが(テレビ映画「イウォーク・アドベンチャー」、「エンドア/魔空の妖精」は除く)、90年代中頃には映画の後の世界を描いたスピンオフ小説やコミックがアメリカで多くリリースされるようになりました。アメコミがブームとなり、フィギュアをコレクションするのがカッコイイといった流れもある中で、スピンオフ小説を読んだり、フィギュアやカードゲームを集めたりしていましたが、そこで映画の中では一瞬しか出ていないようなキャラクターにも、名前やバックストーリーがあることがわかり、その緻密な世界観にのめりこんでいったんです。

東京ディズニーランドのアトラクション「スター・ツアーズ」

――キャラクターのほか、タトゥイーン・ナブー・ダゴバ・エンドアなど、エピソードごとに増えてくるたくさんの惑星も魅力的ですよね。「いつかエンドアに行ってみたい!」と考えている人は、世界中にいるのではないかと。

 はい。すべての「スター・ウォーズ」作品のオープニングに流れる「遠い昔、遥か彼方の銀河系で…」(A long time ago in a galaxy far, far away…)という有名すぎるオープニングのフレーズに象徴される、「地球ではないはるか遠くの銀河系で起こった遠い昔のストーリー」という世界観が、ジョージ・ルーカスをはじめとしたたくさんのアーティストの手によって作りこまれ、あたかも本当にこういう世界があるかのようにな夢をかき立ててくれるんですよね。

――オープニング・クロールの直後に流れる「スター・ウォーズ メインテーマ」のほか、作品の随所で流れるジョン・ウィリアムズの楽曲も、「スター・ウォーズ」を語るうえで欠かせないですよね。ジョン・ウイリアムズが自らタクトを振るボストン・ポップスを聴きに行くことが小さいころからの夢で、3年前ついにその夢を叶えたんですが、シンフォニーホールの楽屋口にはたくさんのスター・ウォーズファンがジョン・ウイリアムズにひとめ会おうと集まってました。「スター・ウォーズ メインテーマ」を聞いた瞬間から「スター・ウォーズ」の壮大な宇宙にワープしたような感覚になりますし、「帝国のマーチ」を聞くと、デス・スターや、ダース・ベイダーの姿が頭の中に浮かんできますよね。

 そうですね、当時、SF映画と言えば電子音やシンセサイザーなどの未来的な音を使うというのが主流でした。『2001年宇宙の旅』(1968年)ではオーケストラを使いましたが、既存の楽曲でした。ルーカスもはじめは既存のクラシックを使用しようとしていたところ、フル・オーケストラのオリジナルスコアを作るべき、とジョン・ウィリアムズが提案したのです。

 登場人物ごとにオリジナルの「ライトモチーフ」を作るという試みをしたことも、注目すべき点だと言えると思います。「ライトモチーフ」とは、特定の人物や事柄やシチュエーションと結び付けて奏でられる短いテーマ曲やフレーズのことで、例えばレイア姫が登場すると「レイア姫のテーマ」が流れます。音楽を聴くだけで、ファンはそのキャラクターのことを思い浮かべることになるのです。

ボストン・ポップスの「ジョン・ウィリアムズ フィルム・ナイト」=2017年6月1日(筆者撮影)

人生で大切なことを伝えてくれる現代の神話

――そして、なんといっても一番の魅力はストーリーにあると思うのですが、「スター・ウォーズ」のストーリーはどのようにして生まれたのでしょうか。

 ルーカスは「スター・ウォーズ」を作るにあたって古今東西のストーリーを研究していたんです。なかでも有名なのは、神話の研究をしていたジョーゼフ・キャンベルの著作に大きな影響を受けたということです。

 「スター・ウォーズ」は「ヒーローズ・ジャーニー」という英雄のストーリーをベースにしてつくられています。天命を得て、たくさんの試練を経験してまた故郷に戻ってくるというもので、神話は大体この構成で作られています。神話がないアメリカに、神話を持ち込んできたということですね。そのうえで、西部劇や時代劇、その他のクラシック映画などの要素も取り入れて作られてきました。

――西部劇や時代劇、クラシック映画の要素とは何ですか?

 ハン・ソロのキャラクターは西部劇のヒーロー。ベストを着て、ホルスターに銃をさし、ならずものがたくさん集う酒場でルークたちと出逢う、西部劇ではよくあるシーンです。それをエイリアンが集う酒場でやったのが、「スター・ウォーズ」なんです。

藤井隆史さん
 時代劇について言うと、ライトセーバーでの戦いは日本刀でのチャンバラが思い起こされますし、服装にも日本的な要素が含まれています。ダース・ベイダーのヘルメットは日本の戦国時代の武士の兜(かぶと)とナチスのヘルメットをエッセンスにして作られています。特にルーカスは、黒澤映画が好きなのでその影響も受けています。

 クラシック映画の要素としては、アクションシーンや音楽にエロール・フリンの海賊映画などの活劇映画の影響が見られるほか、これまでの物語を説明するオープニング・クロールは、ルーカスがもともと映画化したいと考えていたSFシリーズ「フラッシュ・ゴードン」の『宇宙征服』(1940年)に、文字が手前から画面奥へと遠ざかっていく見せ方は『平原児』(1936年)に、その原型が見られます。また、場面転換でワイプを使用していることも、黒澤映画や古き良き時代のハリウッド映画をイメージしていると思われます。

 一作目が公開された1970年代頃のアメリカ映画は「アメリカン・ニューシネマ」と呼ばれる、現実的で反体制や主人公の鬱屈を描いた作品が多かったんです。『イージー・ライダー』(1969年)、『真夜中のカーボーイ』(1969年)、『タクシードライバー』(1976年)などがあげられます。

 悲劇的な結末のものも多く、映画を最後まで観て、映画館から出た後も答えが出ないような、考えさせられるテーマを扱っているのが特徴的です。ベトナム戦争やウォーターゲート事件があって、アメリカ全体が暗く沈んでいた時代に、善と悪がハッキリわかれているハッピーエンドのストーリーに対して、「こんなのうそっぱちじゃないか」という作品群が出来たんです。そんな時代に、古き良きハリウッド映画の世界を再び形にしたのが「スター・ウォーズ」だったんです。

――鬱屈としたものがポジティブに出ると「ジェダイ」に、ネガティブに出るとダークサイドに落ちて「シス」になる、ということなのでしょうね。

 『エピソード3/シスの復讐』では、「選ばれし者」だったアナキンがダークサイドに落ちてダース・ベイダーになり、『エピソード6/ジェダイの帰還』では息子のルークの呼びかけによりダース・ベイダーからアナキン・スカイウォーカーへと帰還する、という善と悪の境界線を行き来する姿が描かれています。つまり、人間は善と悪、どちらにもなりえてしまうのだ、ということが言えます。

 ジョージ・ルーカスは「子どもたちのための映画をつくりたかった」と発言しています。道徳の基本を示すような作品を通じて、「人生において大切なこと」を子どもたちに学んでほしいと考えていたのです。友情、チームワーク、親子の愛情、誘惑に負けないこと、相手を信じること、最後まであきらめないこと等々、たくさんのメッセージが盛り込まれた、いわば「現代の神話」を作ったと言えます。

藤井隆史さん

エンドアの戦いとベトナム戦争

――子どもたちに、「人生において大切なこと」を伝えるためのメッセージとして映画を撮っていたのですね。エンドアの戦いでイウォークが爆撃を受け、仲間のひとりが命を落としてしまうという場面がありますよね。地面に倒れ、体を揺らしても動かないイウォークを前にして、もうひとりのイウォークが悲しみにくれる、というシーン。友情や、戦争の辛さと悲しさ、命の尊さなどが描かれている、ということなんでしょうね。

 元々は第1作目である『スター・ウォーズ/新たなる希望』で、チューバッカの種族のウーキーの惑星でルークが部族長と決闘し、勝って信頼を得た後に、宇宙戦闘機の操縦法をウーキーに教えて、ともに帝国に攻撃するという構想がありました。

 完成した映画ではこの構想は盛り込まれず、チューバッカがミレニアム・ファルコンを操縦するようにウーキーは近代的な技術に強い種族という設定となったため、『ジェダイの帰還』ではこの構想を継承して原始的な種族であるイウォークがその役割を担うことになったのです。

 この『ジェダイの帰還』で描かれた「エンドアの戦い」は、そんなイウォークたちと一致団結した士気の高い反乱軍が、森林での戦いで近代的な兵器を持つ帝国軍を打ち破る、というベトナム戦争をモチーフにしたものになったのです。

――なるほど。表現の仕方はまったく違うけれど、アメリカン・ニューシネマの作品群が描いていたテーマと、実はリンクしていたということなんですね。

 そうですね。(「後編」に続く)