勝部元気(かつべ・げんき) コラムニスト・社会起業家
1983年、東京都生まれ。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱う。著書に『恋愛氷河期』(扶桑社)。株式会社リプロエージェント代表取締役、市民団体パリテコミュニティーズ代表理事。所有する資格数は71個。公式サイトはこちら
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
家父長制的な世帯主給付は制度として破綻している
新型コロナウイルス対策における給付金等を盛り込んだ補正予算が、2020年4月30日に成立しました。動きが他国に比べて異様に遅く、所得減少世帯向けの30万円支給に厳しい要件を設けた当初案では迷走を重ね、政府に対して批判が続出しました。
政府が見直しを進めて落ち着いたものの、受給権者は「住民基本台帳に記録されている者の属する世帯の世帯主」と決まっています。つまり、安倍首相の言った「すべての国民を対象に一律10万円の給付」は正確ではなく、あくまで「家族の人数に応じた世帯主給付」です。
世帯主とは「主として世帯の生計を維持する者」です。男女の賃金格差が根強いために、夫と妻のいる家族においては、そのほとんどは男性となっています。家父長制の残滓とも言うべきこの考え方は、妻を夫の付属品扱いするようなものであり、むしろ無くさないといけません。それにもかかわらず、給付対象を「世帯主」にしたのは、時代に逆行していると言わざるを得ません。
また、様々な弊害や受け取れないケースが多々出るのは明らかです。たとえば、DV被害者はその代表例でしょう。世帯主の暴力から避難している親子などには対応していますが、自治体の窓口にDV被害の申出書を提出する期限は4月24日から30日までと、周知期間が短すぎましたし、国や自治体による告知も十分だったとは言いがたい状況です。
期限を過ぎても提出自体はできるものの、申出書が必要なことに被害者が気付くまでの間に、加害者にお金が流れてしまうケースが続出するのは目に見えています。
その対策として、世帯主への二重払いが発覚した場合は返還を求めるようですが、DV加害者という立場の人々全てが素直に返還に応じるのか疑問です。また、返還によって妻に強い逆恨み感情が生じて、加害者に報復される懸念もあるため、妻が期限後の申し出を躊躇することもあると思います。
まだ避難できていないケースに関しても、何の配慮もありません。配偶者からの被害経験が「あった」と答えた女性は31.3%(男女間における暴力に関する調査<平成29年度、内閣府男女共同参画局>)に及ぶというデータもあります。暴力を受けながらもおそらく避難できていない女性が圧倒的多数でしょう。避難した者だけに対応した現行制度は、DV対策などほぼやっていないと言っても過言ではないでしょう。
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