家父長制的な世帯主給付は制度として破綻している
2020年05月01日
新型コロナウイルス対策における給付金等を盛り込んだ補正予算が、2020年4月30日に成立しました。動きが他国に比べて異様に遅く、所得減少世帯向けの30万円支給に厳しい要件を設けた当初案では迷走を重ね、政府に対して批判が続出しました。
政府が見直しを進めて落ち着いたものの、受給権者は「住民基本台帳に記録されている者の属する世帯の世帯主」と決まっています。つまり、安倍首相の言った「すべての国民を対象に一律10万円の給付」は正確ではなく、あくまで「家族の人数に応じた世帯主給付」です。
世帯主とは「主として世帯の生計を維持する者」です。男女の賃金格差が根強いために、夫と妻のいる家族においては、そのほとんどは男性となっています。家父長制の残滓とも言うべきこの考え方は、妻を夫の付属品扱いするようなものであり、むしろ無くさないといけません。それにもかかわらず、給付対象を「世帯主」にしたのは、時代に逆行していると言わざるを得ません。
また、様々な弊害や受け取れないケースが多々出るのは明らかです。たとえば、DV被害者はその代表例でしょう。世帯主の暴力から避難している親子などには対応していますが、自治体の窓口にDV被害の申出書を提出する期限は4月24日から30日までと、周知期間が短すぎましたし、国や自治体による告知も十分だったとは言いがたい状況です。
期限を過ぎても提出自体はできるものの、申出書が必要なことに被害者が気付くまでの間に、加害者にお金が流れてしまうケースが続出するのは目に見えています。
その対策として、世帯主への二重払いが発覚した場合は返還を求めるようですが、DV加害者という立場の人々全てが素直に返還に応じるのか疑問です。また、返還によって妻に強い逆恨み感情が生じて、加害者に報復される懸念もあるため、妻が期限後の申し出を躊躇することもあると思います。
まだ避難できていないケースに関しても、何の配慮もありません。配偶者からの被害経験が「あった」と答えた女性は31.3%(男女間における暴力に関する調査<平成29年度、内閣府男女共同参画局>)に及ぶというデータもあります。暴力を受けながらもおそらく避難できていない女性が圧倒的多数でしょう。避難した者だけに対応した現行制度は、DV対策などほぼやっていないと言っても過言ではないでしょう。
世帯主が給付金をほかの家族に渡さないケースは、何もDV家庭だけではありません。夫と妻の間に支配従属関係や上下関係があり、「振り込まれたお金を渡して欲しい」と言い出しにくい家庭も多々あると思います。また、子が既に働いている年齢なのに、親がいわゆる「毒親」であるために渡さなかったり、ギャンブル等の依存症のために世帯主が使い込んでしまうことも考えられます。
立憲民主党の女性自治体議員有志がインターネットで「あなたは10万円を受け取れそうですか?」というアンケートを実施し、許可を得た一部の声をnoteに公表していました。そこには悲痛な声が多々届いており、世帯主給付の方法に欠陥があることを改めてうかがい知ることができます。
さらに、お金を家族に渡したとしても、「本来このお金は自分のものだが、お前らにくれてやる」という世帯主も少なからずいるでしょう。これでは、世帯主による支配関係(≒家父長制)を強化しかねません。
世帯主給付を決定した政治家や官僚はこのような家族の姿を想像できなかったのでしょうか? もしくは認識していながらも平気で見捨てたのでしょうか? 世帯主によるある種の「不正受給」を平然と許してしまうことに対して、政策立案能力の欠如を感じます。
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