本質議論を避けた「一部交付」、「表現の自由」の意識低く
2020年05月04日
文化庁が、2019年に開催された「あいちトリエンナーレ2019」(以下「あいトリ」)に対する補助金を一部減額して愛知県に交付した。激しい批判を浴びた「全額不交付」は撤回されたが、そこにどんな問題が残っているのか。
「あいトリ」では、企画の一つ「表現の不自由展・その後」の展示が、8月の開会直後に中止された。キム・ソギョン/キム・ウンソン『平和の少女像』、大浦信行『遠近を抱えて』などの作品に、テロ予告ともとれる内容を含む抗議が多数寄せられたためだ(後に再開)。10月には、文化庁が、すでに審査を通っていた「あいトリ」への補助金を、事務方の判断で不交付とした。大きな社会問題になったことはまだ記憶に新しい。愛知県はこれを不服とし、国と裁判で争う姿勢であった。
私はなぜ文化庁委員を辞めたのか【上】/あいちトリエンナーレへの補助金不交付は問題だらけだ
私はなぜ文化庁委員を辞めたのか【下】/あいちトリエンナーレ問題を「表現の自由」の将来につなげるには
ところが、文化庁は2020年3月23日、この補助金について一部減額したうえで交付することを決めた。愛知県が3月19日付けで事前の安全対策の不備を認め遺憾の意を示し、今後はこのようなことがないように国と連絡を密にするとする意見書を提出したからだ。そのうえで、補助金額を一部減額して補助金の再申請を行い、それを文化庁が認めた。
国が頑迷な姿勢を改めたことは率直に喜びたい。
これは、国と愛知県が裁判を回避するため歩み寄ったものと考えられる。裁判になれば長期間にわたり多大な時間とエネルギーを費やし、その間、国と愛知県の関係はぎくしゃくする。仮に愛知県が勝訴したとしても、国とのしこりは残り、愛知県にとってもメリットが少ないと考えたのであろう。
しかし、しかしこのやり方は、お互いの関係修復を急ぐあまり、問題の本質を隠蔽(いんぺい)する極めて日本的なやり方である。問題解決から逃げたと言わざるを得ない。
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