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疲れた心にきれいな絵を⑥ 古典文学を生き生きと

府中市美術館「ふつうの系譜」展から

山口宏子 朝日新聞記者

「徒然草」の美青年、「平家物語」の賢い鷺

拡大浮田一蕙『徒然草図』(部分、敦賀市立博物館蔵)

 同じく浮田一蕙が「徒然草」の四十三段を描いています。

 晩春の頃、品の良い家をのぞくと、二十歳くらいの美しい青年がくつろいだ様子で本を読んでいた、どんな人だったのだろうか――という吉田兼好のスケッチのような文章がそのまま絵になっていますね。ちょっとメランコリックな感じもします。

 〈とある場所の名前も知らない青年を描く。「名もなき雅(みやび)」という感じの一幅です。現物は保存状態がよく、本当にきれいです。掛け軸ですから、掛けたり、巻いたりする時の扱い方によって傷んでしまうこともありますが、きっと、とても大事に扱われてきたのでしょう。青年のいる部屋の畳は緑青(ろくしょう)で厚く塗られていて、着物の色も濃い。一方で風景は薄く塗られ、透明感があります。そのメリハリが利いています〉

 青年のいる場所にピントを合わせたように見えます。

 〈でも一方で、ふわりと描かれたように見える風景の描写も実は細かいのです。全図を見ていただくと、下の方の池にはオシドリもいますよ〉

 もう一点は「平家物語」から。冷泉為恭(れいぜい・ためちか、1823~1864)の『五位鷺(ごいさぎ)図』です。

 醍醐天皇が、六位の蔵人に、池にいる鷺を捕らえるように命じた。蔵人が近寄り「天皇の命令だぞ」と言うと、鷺は飛び去らず、捕らえられた。天皇は「命令に従ったのは殊勝だ」と、五位を授けた、というエピソードですね。

拡大冷泉為恭『五位鷺図』(部分、敦賀市立博物館蔵)

 〈六位の蔵人が鷺が、目と目を合わせて対話している場面を絵にしたところがおもしろいですよね。松の葉の緑青、蔵人の着物の群青(ぐんじょう)と朱、といった岩絵の具の美しさもみどころです。岩絵の具は粒子がザラついた感じになるので、滑らかさや透けるような表現をするのはとても難しいのですが、それをとてもうまくつかっています〉

 この作者、冷泉というからには、お公家さんですか?

〈いえいえ、京の狩野派の家に生まれた人です。「冷泉」は自ら名乗りました。「やまと絵」に傾倒し、古画や絵巻を熱心に模写し、古来の儀式や礼法にもとても詳しかったと言われています。彼も「復古やまと絵」を代表する一人です〉

拡大浮田一蕙『徒然草図』(19世紀前半、128.2×50.1センチ、敦賀市立博物館蔵)
拡大冷泉為恭『五位鷺図』(19世紀後半、102.3×59.9センチ、敦賀市立博物館蔵)

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筆者

山口宏子

山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者

1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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