2020年05月06日
近く、新型コロナウイルスに関する天皇メッセージが出るかもしれない。4月13日付の論座で、そう書いた。
新型コロナの天皇メッセージを思う。「利他」の人だから超えられる「分断」
10日、陛下と雅子さまが並んで、尾身茂・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長からの説明を受けた。専門家の説明を受けた翌日にメッセージを出した、東日本大震災時の上皇さま(当時は天皇)の前例が念頭にあった。
あれから3週間が過ぎた。5月6日正午現在、陛下からのメッセージは出ていない。
1日に、令和が2年目を迎えた。普通なら華やかさに包まれるはずのそのニュースも、コロナ報道の陰で小さく伝えられるにとどまった。それでもNHKは「おはよう日本」でお二人の歩みを振り返り、東京大学名誉教授・御厨貴さんのコメントを紹介していた。
感染が拡大する現状については、陛下がさまざまな分野の専門家から説明を受けていることを紹介した。続く御厨さんの言葉は、こうだった。「新しい天皇陛下はこういうことを言ってくださるんだという良きイメージにつながると思うので、なかなか大変なんだろうとは思いますけども、適宜適切な時に、メッセージをぜひ出していただきたい」。
メッセージは「イメージ戦略」の一つ。御厨さんは冷静に捉えていた。皇室のことを「究極のイメージ産業」と表現した、ジャーナリストの岩井克己さんの視点に通じる。皇室は、ただ存在していればいいものではない。国民とのつながりがあってこそ続く。2人に共通するのは、そういう視点だと思う。
平成の終わりに出した拙著『美智子さまという奇跡』で、岩井さんの表現を借りた。皇室が「イメージ」の最大化を図る企業だとするなら、もっとステークホルダーを意識すべき。そう書いた。雅子さまの「適応障害」についての広報戦略が、余りにもない。そう思っていたからだ。国民、皇族、宮内庁職員、メディア……それらステークホルダーから理解を得る「広報戦略」が必要と書いた。
思うに皇太子時代の陛下は、雅子さま回復のため、病状や行動の情報開示をごく控えるという方針を選んだ。それが奏功したから、令和になって雅子さまは活躍できた。今はわかるが、当時は違った。たまに報じられる、例えば「三つ星レストランでの食事」が目立ち、雅子さまへの批判となった。だから拙著では、「精神科医の斎藤環さんを広報担当に」と書いた。適応障害という今日的病の意味するところを、適切に解説してくれる人だったからだ。もちろん机上の論理でしかなく、実際にはどうすればいいのだろう。
ヒントをくれたのが、関東学院大学教授・君塚直隆さんの著書『立憲君主制の現在――日本人は「象徴天皇」を維持できるか』だ。英王室における「ダイアナ事件」と「その教訓」が紹介されていた。
1997年、ダイアナ元皇太子妃がパリで亡くなった時、スコットランドで静養中だったエリザベス女王は「王室を離れた人」に何の反応もしなかった。一方、ケンジントン宮殿前には何万という国民が花束を持って集まり、悲劇を悼んだ。ロンドンに戻った女王はうずたかく積まれた花を見て事態の重大さを知り、最大限の弔意を表した。
この時、英国がサッチャー政権で推奨された「自由競争」の影響を大きく受けていたことに君塚さんは注目している。王室への「恭順」という感覚が急速に衰退し、経済的格差の拡大から下層階級を中心に「ダイアナも自分も弱者だ」という認識が広がっていた、と。若い人を中心に皇室離れが起きている、「自己責任」時代の日本と重なると思う。女王はこうした新たな状況についていけていなかった。だが、教訓を得た。「これ以後、王室はホームページや最新の通信手段を利用して、広報活動に邁進した」。そう君塚さんは書いている。
だからだろう、英王室はコロナ禍でも動いている。
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