バクパイプは 他人に聴かせるためにやっているのか
国内唯一人の「職業奏者」がコロナ自粛の渦中で考えた「音楽の本質」【上】
加藤健二郎 バグパイプ奏者
戦場ジャーナリストからバグパイプ奏者へ

バグパイプ演奏の正装をした筆者。職業としている奏者は日本では一人だけだと思われる
音楽業界は、新型コロナウイルス対策のための自粛の風を真正面から受けたが、私のバグパイプ奏者としての活動は、当初はそれほど大きな影響は受けないまま2020年4月を迎えた。影響が少なかった理由は、活動の中心をイベント等での本番演奏から、音楽スクールでのバグパイプ・レッスンに移行して4年目になり、すでに軌道に乗っていたためである。
しかし4月上旬、政府の緊急事態宣言が出されると、状況は一変した。

戦場ジャーナリスト時代の筆者。1988年、中米ニカラグア・サンディニスタ政権のジャングル専門戦闘部隊と
私は、総合建設会社に土木技術者として勤めた後、15年余りの戦場ジャーナリストを経て、人生後半戦の43歳でバグパイプの道を選んだ。日本では、バグパイプは名前をよく知られてはいるものの、演奏できる人は全国で70~80人しかいない、マイナーな楽器だ。職業としている奏者は、私だけだと思われる。
コロナ禍で日々進む事態は、スコットランドで600年以上の歴史を持つバグパイプの文化や伝統の継承について、改めて自覚する契機になっている。16年間の演奏家経験を基に、日本ならではのバグパイプ文化へのアプローチや、音楽の本質について、考えてみたいと思う。
レッスンの場を奪われ、教え子は続けられるだろうか
緊急事態宣言を受けて、私が講座を持つ東京都内の音楽スクールは、全体が休校となってしまった。
楽器を購入し、ある程度まで演奏できる段階に達していた生徒さんが9人、まだ購入していない人が10人以上おられる。せっかく2~3曲をマスターした人たちが、途中で辞めてしまうことになると、「もったいないな」と、まず感じた。
毎週ほぼ欠かさずレッスンを続けていた人にとっても、バグパイプなんて、しょせんは趣味。レッスンの場が無くなってまで、孤独な個人練習を続けられるだろうか……。

臨時休業を伝える貼り紙をした店が目立つ繁華街=2020年4月10日、東京都内
バグパイプは大音量なので、防音ルームやスタジオなど、練習場所を各自で見つけなければならなくなる。レッスンの場がなくなり、本番のイベントで演奏するという目標も持てない状態で、続けられる人はどれほどいるだろうか。