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【2】どんな本でも「不要不急」のものとは思えない

人びとの連帯による世界のより良き可能性を信じていたい

福嶋聡 ジュンク堂書店難波店店長

 小笠原さま

 第一信、ありがとうございます。

 そう、最初に池袋でお目にかかってから、もう15年も経つのですね。あの時のトークは、サッカーファンの方々も多く集まり、いつにないムードと賑わいだったことを、よく覚えています。確か有元健さんが、ワールドカップカメルーン代表の滞在で有名になった大分県中津江村産の焼酎を持参して、参加された皆さんに振る舞ってくださいましたよね。受付カウンターに座っていたぼくも、勤務時間中にもかかわらず、ご相伴に与りました(もう時効ですよね(笑))。書き手と読み手が向き合って、いつもの書店とは異次元の時間・空間を創発することが、トークイベントの何よりの魅力でした。

2日に1度は開いていたトークイベント

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 ぼくが関西に戻ってからも、新著が出るたびに、小笠原さんはトークイベントを提案してくださり、何度も開催できました。特に難波店では、仕切りも設けず店内の一角で開催したので、木戸銭も取りづらく、謝礼も一切できないことを心苦しく思っていたのですが、第一信で、小笠原さんご自身がそのようなことは意に介さず、イギリスでのご経験やスチュアート・ホールの活動を交えて書店でのトークの意義を熱っぽく語ってくださったことで、救われた思いがしています。

 池袋本店オープンは、1997年8月。ぼくは、3カ月後の11月にオープンした仙台店の店長として赴任しました。道も広く、ゆったりと時間の流れる杜の都が気に入り、本音をいうと、2000年に池袋転勤を言われたときも、あまり嬉しくはなかったのです。ただ唯一、池袋本店で始まっていたトークイベントだけは魅力でした。仙台店も900坪の大型店だったのですが、イベントスペースは無かったし、やはり出版社や著者が集中している東京だからこそ可能な企画と思っていたのです(それは、間違った思い込みでした。その後いろいろな地域でトークイベントが開催されるようになりました)。
 
 2000年3月に池袋本店副店長に着任。1年間は、営業を続けながら壁をぶち抜いて売り場面積を2倍(1000坪→2000坪)にするというとてつもない増床作業に携わりました。2001年のリニューアルオープン時、そうした時にはさまざまなイベントや企画がつきものなのですが、店長や他のスタッフと話し合った結果、「これまでも続けてきたトークイベントを、更に積極的に行っていくのがいいのではないか」ということになり、増床前に9階にあった喫茶部が4階に移って面積も広くなり、屋上テラスも併設された場所で、企画を立てていこうということになったのです。

 最初のうちは企画にも集客にも苦労したのですが、持続こそ力、そのうち、出版社や著者から企画がどんどん持ち込まれ、最も多い時には2日に1回くらいの開催となったのでした。イベントのために喫茶を閉店するにも限度があり、一般のお客様にもあまりに迷惑をかけてはならないだろうという店長の判断で、開催を木曜日と土曜日の週2日に限定しました。小笠原さんたちにお越しいただいたのは、その体制が確立したあとだったと記憶しています。

 企画・進行担当者は専任がいたわけではなく、誰が担当してもよかったのですが、結局リニューアル前からトークイベントを差配していた田口久美子さん(リブロからやってきた業界の大先輩です。著書も多く、何冊も文庫化されているように、ぼくの本よりずっとよく売れています)とぼくが担当する割合が高くなっていきました。こういうのは、結局「やりたい」と思っている人間が中心になっていくものです。

 大雑把にいえば、大物、文芸関連を田口さんが、人文・社会関係がぼくという役割分担になっていきました。最初からそう決めていたわけではもちろん無く、それぞれの嗜好、付き合いの深い出版社や著者の性格が反映したということです。

 ぼくとしては、評価の定まった大物よりも、これから出てきそうな人、売り出したい人のトークを企画することに、興味と魅力を感じていたので、その役割分担はとてもありがたいものでした。確かに集客には苦労するのですが、そこには思わぬ出会いがあり、時には緊張感のあふれる議論も生まれます。イベントは滞りなく終了するのがベストと考える主催者は多いでしょうが、天邪鬼なぼくは、そこに「事件」が発生することの方が、よほど面白かったのです。

 小笠原さんが、〝売り場の一角で、本を眺めるお客さんのすぐ脇で、レジで商品のバーコードを検知する「ピッ」という音が聞こえる距離で、その日初めて出会う方々の前で、1冊の本や1つのテーマについて語り対話するという経験は何ものにも代えがたい〟と書いてくださったのは、まさに我が意を得たり、とても嬉しく思いました。

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筆者

福嶋聡

福嶋聡(ふくしま・あきら) ジュンク堂書店難波店店長

1959年生まれ。京都大学文学部哲学科卒。1982年、ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)、京都店、仙台店、池袋本店などを経て、現在、難波店店長。著書に『希望の書店論』(人文書院)、『劇場としての書店』(新評論)など。

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