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噺家・笑福亭銀瓶が語る演劇(上)

舞台『焼肉ドラゴン』への出演で気づいたこととは?

笑福亭銀瓶 落語家

【プロローグ~今を生きるしかない~】

 まさに『一寸先は闇』とは、よく言ったものである。この度の『コロナウイルスによる影響』が、これほどのものになると、今年のお正月を過ぎたあたりで予言できた人がいただろうか。

 『緊急事態宣言』が発令されたことによって、多くの商店、店舗が休業を余儀なくされ、また、スポーツイベント、音楽ライブなど、ありとあらゆる催し物が、開催できないという事態に陥っている。落語家の世界も同様、全国各地で落語会の中止、寄席の閉鎖が相次ぎ、今現在(5月初旬)、観客を入れた通常の落語会が催されているところは、まず無いと言っていいはずだ。

 私が最初にコロナウイルスのことを知ったのは、確か、1月半ばくらいだっただろうか。テレビやネットで「中国の武漢で原因不明の新型肺炎が発生している」というニュースを目にした。その時は「へえ~、そうなんだ~」くらいにしか思っていなかった。その後、1月24日(金)から始まる『春節連休』で、中国から多くの観光客が来日するにあたり、「感染への警戒が必要」という報道も耳にした。私自身、少し不安を感じたが、それでもまだ、他人事であった。

拡大撮影:佐藤 浩

 2月1日(土)午前中、大阪の天満天神繁昌亭で私の落語会があった。通常、土曜日、日曜日には、大阪天満宮へ参拝する人たち、天神橋筋商店街での買い物客など、多くの人々が午前中から繁昌亭の周辺を行き来するのだが、この日は違った。開場前、後輩噺家と一緒に当日券の呼び込みをしながら「今日は、エライ、人通りが少ないなぁ」と会話したことを覚えている。

 それからの展開は、実に目まぐるしいものであった。落語会に予約されたお客様からのキャンセルのメール、中には、前売りチケットを購入したにもかかわらず、「チケット代金が無駄になってもいいので、不安だから、今日は行くのをやめておきます」という連絡が相次ぎ、そして、3月以降の仕事の中止・キャンセルの電話が毎日のようにかかってきた。もちろん、これは私だけのことではない。日本で活動している全ての噺家に共通することである。

 落語界だけではない。お芝居、演劇の世界でも、全く同じ状況である。3月半ば、大阪で上演される予定で、私も楽しみにしていた、鄭義信(チョン・ウィシン)さんが作・演出のお芝居が中止になり、それ以外の公演もどんどんと自粛・中止が発表された。そして、劇場自体の閉鎖。生の演劇を観ることができない。

 脚本家がどれだけ素晴らしいストーリーを書いても、演出家が独創的なアイデアを思いついても、役者がいくら稽古を重ねても(今では、稽古場に役者が集まることすら難しい)、それをお客様の前で披露することができない。表現者として、これほど辛いことはないだろう。しかし、今は耐えるしかない。世の中で、お商売をされている人たち、あらゆる経営者の皆さんはもちろんのこと、多くの方々が苦難を強いられている。

拡大撮影:佐藤 浩

 いつの日か、また以前のように、本来そうであったように、『お客様を集めて、お客様の前で、自分たちが研鑽してきたことを全て吐き出す、表現する』ということが可能になると信じて、今を生きるしかない。舞台人同様、その日を楽しみにしてくださっているお客様たちが、必ず、存在しているのだから。

 噺家である私は、舞台に立つ側の人間なのだが、時に、客席側に回ることも多い。映画を楽しんだり、音楽を聴きに行ったり、歌舞伎や文楽などの古典芸能を観たり、大ホールや小さな劇場での演劇を観たり。そういう時間を持つことによって、ネタができることもあるし、もっと言うと、自分自身の感性を磨きたいとも思う。いや、そんな理屈っぽいことではなく、純粋に楽しみたい、笑いたい、時には感動して涙を流してみたい。そうです。今、これを読んでいらっしゃる、舞台や演劇に興味がある、大好きだという皆さんと同じように。

 今回は、噺家・笑福亭銀瓶が『演劇・お芝居』に焦点を絞って、思うがまま、感じたまま、綴っていきます。どうか、最後までお付き合いくださいませ。

【第1幕~演劇との出会い~】

拡大撮影:佐藤 浩

 私が演劇に興味を持ち始めたのは、今から20年前、2000年くらいからだろうか。その数年前から、わかぎゑふさん、関秀人さんなど、関西の劇団で活躍されている役者さんたちのことを知り、「お芝居、観に行ってみよかなぁ」と、漠然と思っていた。そして、何が最初だったのかは忘れてしまったのだが、関秀人さん率いる『立身出世劇場』や、南河内万歳一座の作品、わかぎゑふさんが手掛けるお芝居など、関西の小劇場で上演される演劇に足を運んだ。観るほどに、どんどんと惹きこまれていった。

 お芝居のストーリー、内容はもちろんのこと、舞台転換の仕方や、小道具のハケ方、照明の使い方など、『落語では一切やらなくてもいいこと、やる必要のないこと』に目が行き、そして、感心した。

 満足いくお芝居、クオリティーの高い演劇には、そういったことに『無駄がない』のである。この『無駄がない』というのは、落語においても大変重要なことである。私は『いい落語をするためには、無駄をなくすことが大事なのだ』ということを観劇することによって学んだように思う。

●YouTube:落語家 笑福亭銀瓶のぎんぎんチャンネル
●HP:笑福亭銀瓶公式HP

新国立劇場[巣ごもりシアター]おうちで戯曲
※5/7(木)から、舞台「焼肉ドラゴン」(2016年バージョン)の戯曲が配信されています(2週間限定)。

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筆者

笑福亭銀瓶

笑福亭銀瓶(しょうふくてい・ぎんぺい) 落語家

1967年兵庫県神戸市生まれ。1988年 3月笑福亭鶴瓶に入門。2005年から韓国語による落語も始め、韓国各地で公演。2010年10月文化庁文化交流使として韓国に滞在。ソウル、釜山、済州で20公演約3500人を動員する。舞台『焼肉ドラゴン』、NHK朝ドラ『あさが来た』『わろてんか』『まんぷく』『スカーレット』に出演するなど、役者としても活動中。著書「銀瓶人語」vol.1~vol.3(西日本出版社)。