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カミュの『ペスト』を読む(3)――人間もウイルスも神の被造物!?

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

新型コロナの流行は、人間の歴史における大変革の予兆

 そして翌年、ペストの流行は終息し、オランは以前の穏やかな日常を取り戻すが、リウーは自分たちの行動は多くの人々の死を防げなかったのだから、しょせんは敗北の戦いだったと内省しつつも、市の封鎖が解かれ、歓喜に湧く市民たちの能天気な姿に愛(いと)おしい眼差しを向ける。愚かさを含めて<人間性>――人間の人間たるところ――を肯定する、いかにもカミュらしい温かい筆づかいだ。

 こうしたカミュの人間賛歌は、人間の愚かさ・欺瞞・エゴイズムを辛辣に揶揄(やゆ)する現代フランスの人気作家、ミシェル・ウエルベックや、神経症的な「超人思想」や「優性思想」にとり憑かれ、安逸さのみを求める怠惰な大衆を<畜群>と呼んで呪詛(じゅそ)したニーチェの人間観などとは、対照的なものである。

ペストが流行し中世欧州の街から逃れる人々を描いた絵=英ウェルカム・コレクションから拡大ペストが流行し中世欧州の街から逃れる人々を描いた絵=英ウェルカム・コレクションから

 パヌルー神父に話を戻せば、オトン少年の痛ましい死をきっかけに、この敬虔な神父が保健隊に加わることを決意するくだりは感動的だ。パヌルーは、

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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