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【5】ドラマの基本の型は五言絶句 その3

「いいラストを作るコツ」 4コマ目は2コマ目から生まれます

中川文人 作家

心に沸き立った思い

 前回は唐代の詩人、杜甫の作った五言絶句の一行目と二行目のもつ意味と役割を明らかにし、それが現代の4コママンガにどう受け継がれているかを見てきました。

 今回は三行目と四行目、すなわち、3コマ目と4コマ目を見ていきます。

 まずは、基本の型である杜甫の五言絶句を見てください。

 江碧鳥逾白  江は碧にして 鳥はいよいよ白く
 山青花欲燃  山は青くして 花は燃えんと欲す
 今春看又過  今の春も看のあたりに又過ぐ
 何日是歸年  何の日か 是れ帰る年ぞ
*書き下し文は、『新唐詩選』(岩波新書)より

 三行目を見てみましょう。書き下し文に慣れてない人には意味がわかりにくいと思いますので、さらに現代語訳すると、「この春も、あっとう間に過ぎていく」という意味です。「青い山」と「燃えるような花」という春の光景を見て、杜甫はそう思ったわけですが、これが三行目の役割です。杜甫はここで春の光景を見て心に沸き立った「思い」を語っているわけですが、三行目とは二行目に対する思いを語るところ、思いをぶつけるところなのです。

 「ジキル博士とハイド氏」の3コマ目を見てみましょう。

作画:斉田直世

 子分が「人間には表と裏がある」と言っていますが、これは、善人のジキルと悪党のハイドが同一人物だったという衝撃の事実を受けて、心に沸き立った彼の思いです。

 次は「星の王子さま」です。

作画:斉田直世

 矢内原先生は「どうなのかな」と言っていますが、これも「思い」です。先生は2コマ目で紹介した「肝心なことは目に見えない」というキツネの台詞を引き合いに出し、「肝心なことが書いてないじゃないか」という思いを語っているのです。

 次は「たけくらべ」です。

作画:斉田直世

 これはもう説明不要ですね。町のアイドルである美登利に対する思いが率直に述べられています。

 最後は「蒲団」です。

作画:斉田直世

 これも説明不要でしょう。「蒲団干し」と聞いて岸谷編集長の心に沸き立ったイヤらしい思いが語られています。

 以上、四つのマンガの3コマ目を見て来ましたが、どれも杜甫の五言絶句の三行目と同じで、2コマ目に対する「思い」が語られています。

4コマ目は2コマ目から生まれる

 さて、いよいよ4コマ目です。

 まずは、杜甫の五言絶句の四行目を見て

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