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「中高生のためのワタシの一行大賞」には読書の自由さが漲っている

野上 暁 評論家・児童文学者

作者も驚く着眼点

 今回の大賞は、たまたま選考委員の角田光代の『さがしもの』から、「目先のことをひとつずつ片づけていくようにする」を選んだ聖ヨゼフ学園中学校の宮下恵さん。海外に語学研修で出かける荷物作りをしていて、さっきまで手の中にあったはずの大事な鍵をどこに入れたのか見つからない。ちょっと視線をずらしたら見つかって気持ちが落ち着き、昨晩読んだ『さがしもの』の一行が思い出された。

角田光代の『さがしもの』(新潮文庫)拡大角田光代『さがしもの』(新潮文庫)
 「さがしもの」と「なくしもの」は微妙に違う。これから自分にない「さがしもの」を見つけに海外に旅立つ私は、「この言葉の鍵を人生の鞄に持ち歩きたいと思う。目の前の雑然とした物事は、心ひとつで整理されるのだから」とエッセイは結ばれる。

 これを大賞に選んだ角田は、さがしものとなくしものの違いについて自分で書きながら考えた事がなかったと言い、「ない」ことを振り返るのではなく、今より先に目を凝らしていくのが「さがしもの」なのかと教えられ、希望をもらった思いだと選評で述べる。

 優秀賞は、王城夕紀『青の数学』から、「同じ問題を見ていても、誰も同じものを見ているわけじゃない」を取り出し、小学校の頃のテストで×印をもらった納得できない思いを語る横浜富士見丘学園高等学校の福本桃子さん。

 テストに、鳥獣戯画の一場面を取りあげて蛙の気持ちを読む問題が出た。福本さんは「驚いていた」と記し、友だちは「悔しがっていた」。で、正解は「喜んでいた」だったという。出題者と同じように見なければ間違いになるというのは納得いかない。同じことは高校生になった今でも続いている。だから「教科書の物語は読めるのに、国語を読むことは難しい」。「大人は表現の自由だなんだというけれど、私は国語に見方の自由が欲しい」と。まさに紅野謙介の『国語教育の危機――大学入学共通テストと新学習指導要領』(ちくま新書)で批判されている新学習指導要領の問題点にも通底する、文学作品の読解についての疑問である。

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筆者

野上 暁

野上 暁(のがみ・あきら) 評論家・児童文学者

1943年生まれ。本名、上野明雄。小学館で子ども雑誌、児童図書、文芸書、学術書などの編集部門を担当。著書に『おもちゃと遊び』(現代書館)、『「子ども」というリアル』『日本児童文学の現代へ』(ぱろる舎)、『子ども学 その源流へ』(大月書店)、『越境する児童文学』(長崎書店)など。編著に『わたしが子どものころ戦争があった――児童文学者が語る現代史』(理論社)、『子どもの本ハンドブック』(三省堂)、『いま子どもに読ませたい本』(七つ森書館)など。日本児童文学学会会員。日本ペンクラブ常務理事。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです