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「ウイルス対人類」の二項対立を超えた場所へ

静岡「くものうえ」演劇祭を通して考えたこと(下)

宮城聰 演出家、SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督

 静岡県舞台芸術センター(SPAC)は2020年4月25日~5月6日、コロナ禍で開催できなくなった「ふじのくに⇄せかい演劇祭」に代わって、「くものうえ↑↓せかい演劇祭」を実施した。参加予定だった海外5カ国の劇団とSPACの映像配信やZoomでのトーク、俳優やスタッフが発案した多彩な企画などを通じて、劇場に集まることができない状況の中で、どうにかして「演劇の中の有効成分」を届けようとする試みだった。その活動を通して考えたことを、芸術総監督の宮城聰さんがつづった後編です。

世界の演出家5人と「くものうえ」で対話する

 さて、前回お伝えした「くものうえ↑↓せかい演劇祭」の対談シリーズで、僕は5人の演出家とZoomで対話をしました。

拡大Zoomで対話をする宮城聰

 レバノン出身のカナダ人で、いまパリのコリーヌ国立劇場のディレクターをつとめているワジディ・ムアワッドを皮切りとして、コロンビア出身でスイスのクレベール=メロー劇場ディレクターのオマール・ポラス。ブラジル在住でベルギーにも創作拠点を持つクリスチアーネ・ジャタヒー。フランス・アヴィニョン演劇祭のディレクターであるオリヴィエ・ピィ。モスクワのゴーゴリ・センターのディレクター、キリル・セレブレンニコフの5人です。

 この対談シリーズを思いついた4月あたまの時点では、僕は(かつて演出家アントナン・アルトーがペストについて演劇的な考察を残したように、)21世紀をまるで中世に引き戻してしまったかのような新型コロナウイルスというものについて、それぞれの哲学的な考察、「こんにちの人類にとってCOVID-19とは何なのか」を聴きたいと思っていました。

 ところが、そこから3週間経って、ワジディとZoomで話し始めたとき、僕はからだからじわーっと湧き上がるような嬉しさを感じたのでした。この、ほとんど生理的と言ってもいい「嬉しさ」はどこから来たのか? 5人との対談で、そのたびに僕はこの感覚を味わい、次第にその中身がわかってきました。

 それは、「いつの間にか僕自身が二項対立の思考に陥っていた」ことへの気づきです。


筆者

宮城聰

宮城聰(みやぎ・さとし) 演出家、SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督

1959年東京生まれ。90年ク・ナウカを旗揚げし、国際的に活動。2007年4月、SPAC芸術総監督に就任。古典から現代作品まで幅広く演出するのと並行して、世界各地から優れた作品を招き、劇場を「世界を見る窓」としている。14年7月、フランス・アヴィニョン演劇祭に招かれて『マハーバーラタ』を上演、17年には『アンティゴネ』で、アジアの劇団として初めて、同演劇祭の開幕を飾った。04年第3回朝日舞台芸術賞、05年第2回アサヒビール芸術賞、17年度芸術選奨文部科学大臣賞(演劇部門)を受賞。19年フランスの芸術文化勲章「シュヴァリエ」を受けた。18年から東京芸術祭総合ディレクターも務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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