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宮藤官九郎、ウーマンリブを5年ぶりに上演しようと思った理由

ウーマンリブvol.14『もうがまんできない』

真名子陽子 ライター、エディター


 本来であれば21日に大千穐楽を迎えていたはずの、ウーマンリブvol.14『もうがまんできない』。宮藤官九郎さんの5年ぶりの新作書き下ろし舞台で、ホームグラウンドである大人計画でのウーマンリブ公演。大人計画主宰の松尾スズキさんと看板役者の阿部サダヲさんが、2003年以来そろって出演することでも話題となっていた公演でした。残念ながら全公演が中止になってしまいましたが、自粛前に大阪で宮藤さんの取材会が開かれ、この公演への思いを語っていただきました。その思いをお届けします。

大河ドラマの対極にある世界

拡大宮藤官九郎=安田新之助 撮影

記者:ウーマンリブ公演ということですが、今回はどんな作品になるのでしょうか?

宮藤:いろんなタイプの公演をやっているんですけど、今回はしっかりと芝居をしたいなと思っています。なるべくリアルに、皆さんが暮らしている日常の延長線上にあるような世界観の芝居にしたいですね。今、どういう時代なのかなと考えた時に、いろんな便利なものが世の中に溢れているのに、人々のストレスは減っていないなと感じて、そういうことが何となく感じられる芝居にしたいなと思っています。いろんな“がまんできない”感情が交錯する、2時間くらいの物語にしたいなと思い、こういうタイトルにしました。

記者:大河ドラマ「いだてん」からの今回の舞台です。舞台だからこそやりたいことってあるのでしょうか?

宮藤:「いだてん」がありましたので、ここ3、4年は新作は書けなかったんですけど、「いだてん」の次は何だろうと考えた時に、ウーマンリブ公演が良いんじゃないかなと。20年以上前からウーマンリブ公演をやっているので原点でもあるんです。でも、だんだん忙しくなって、2年空いて、3年空いて、ついに5年も空いてしまったので、そろそろ自分でもやりたくなってるだろうなと思ったんです。まさに今回本を書いてみて、やはりアウトプットの仕方が他の作品とは違って新鮮というか、懐かしいという感覚になりました。

記者:リアルな物語ということですが、大河ドラマだと人の人生を長い時間をかけて描きますが、今回は2時間で見せないといけないですね。

宮藤:なんか……最近、芝居が長いですよね。ウーマンリブは休憩を入れないスタイルでやっていて、今回も2時間でやりたいなと思っているんですけど、時間を飛ばしたり、場面転換したりしないのは、その場で初めて会った人たちの中でどれだけドラマを動かせるのか、それは自分にとってチャレンジです。大河ドラマみたいに50年にも及ぶ人の人生と時間の流れに比べたらたった2時間ですけど、その中でどれくらいその人間たちに関われるのかということをやってみたいなと思って。

 この作品をもともと発想したのは、街角でスマホを出してゲームをやってる人たちがいるじゃないですか。そういう光景から芝居が始まったらどうなるんだろうと思ったんです。同じゲームをやっているという以外になんの接点もなくて、たまたま、そこにいるっていうだけで物語が始まったらおもしろいかなと思って。そこからの発想なので、大河ドラマの対極にある世界かなと思います。

なんでこうなっちゃたのかなあって

拡大宮藤官九郎=安田新之助 撮影

記者:チラシに「5年前より生きにくい社会になってしまった」と書いてありますが、便利にはなったけれど生きにくくなった?

宮藤:そうですね。消費税とか、店で食べるか持って帰るかで違ったり、便利になればと配信にしたのにレンタル屋がつぶれてしまったり。シネコンができたけれど、見たい作品がすぐに終わってしまうとか……日常のいろんなことに大変だなと思ったり。そういうことが何か感じられると良いなと思っています。

記者:2時間の芝居で伝えたいことは?

宮藤:ストレスフルな時代にわざわざストレスのある生き方を選んでしまっている気がするんです。なんでこうなっちゃったんだろうって思うことがあると思うんですけど、自分だけじゃなかったんだと感じていただけたら良いなって。僕は作家だからいろいろ考えることを好きでしてきたんだけど、それがいつの間にか「なんで俺だけ、こんなに考えなきゃいけないんだ」と思うようになったり。そう思うのは何のせいだっけ?ということを思い出せる芝居になれば良いなと思います。そう思いながらも適応していっちゃうじゃないですか、みんな。なんでスマホの充電が切れたくらいでこんなに不安なんだろう……スマホを持ってるからじゃんっていうことに気づく……というか、そんな風に考えるきっかけになれば良いなと思っています。

記者:自分の足元を見つめるというか……

宮藤:そうですね、なんでこうなっちゃったのかなあって、みなさんそれぞれに気づきがあれば良いなと思います。

適当に付けた名前のわりに

拡大宮藤官九郎=安田新之助 撮影

記者:そもそも「ウーマンリブ」と名付けた理由は?

宮藤:20歳くらいから芝居を書き始めたんですけど、宮藤君の芝居はよくわからないと女優さんからの評判が悪くて、しようがないから男だけでやったら評判が良くて(笑)。その時に僕は女性と合わないんだなと。ある時、ユニット名を決めようとなってみんなに相談したら、宮崎吐夢くんが宮藤さんがやるんだったら「ウーマンリブ」にしたら良いんじゃないですか、女の人のこと何にもわかっていないからって(笑)。少しは女性の気持ちを考えたら良いじゃないですかって言われまして……。僕が付けたのではなく宮崎君に付けてもらったんです。まさかこんなに続くと思っていなかったですけどね。

記者:「ウーマンリブ」と言う名前が活かされている?

宮藤:ウーマンリブ公演は外部の演出と違って常に自分発信でやっているので、その時に興味がある事をやりたいんです。だから内容はバラバラではあるんですけど、「ウーマンリブ先生」(2006年)くらいから本来の意味に近づいているかなと思いますし、宮崎あおいさんが出てくれた「SAD SONG FOR UGLY DAUGHTER」(2011年)は自分が娘も持って親になったから創れた芝居だったかなって、今振り返ると思います。宮崎君が適当に付けた名前のわりに引っ張れてはいるかなと思いますね。

記者:なるほど。

宮藤:松尾スズキさんが作家性の強い公演を立て続けに書いていたので、僕は役者ひとり一人のおもしろさで2時間を引っ張れるようなものをやりたいなと思って、自分の中で差別化をしていました。最初、松尾さんの演出助手をやりながらウーマンリブ公演を創っていたので、松尾さんとは違う光の当て方を役者にしたいなと思ってやっていたことを、今でも引きずっていますね。

やっぱり演劇は生で観ないと……

拡大宮藤官九郎=安田新之助 撮影

記者:海外などで芝居が映像で配信されて話題になっていたりします。そのあたりはどのように感じられますか?

宮藤:いやあ、やっぱり演劇は生で観ないと……。大人計画の芝居をYouTubeで観ましたという方もいらっしゃるんですけど、それは僕からすると観たことにはならないんじゃないかなと思います。劇場に足を運んで、開演と同時に客席が暗くなって、そこで役者が芝居をするから演劇だと思うので。映画も劇場で見ないと見たことにならないと本当は思っています。演劇の生だからこそのありがたみがより出れば良いんですけどね。2時間の芝居が7,000円で観られるのは安い方だと思うんですけど、それは観に来て欲しいという思いからなんですよね。

記者:若い方にも観ていただけるように?

宮藤:ヤング券(3800円)を設定しているのは切実な問題もあって、僕は20代の頃に下北沢のスズナリや駅前劇場で安い値段でお芝居を観て、それで人生が変わっているんですよね。今は10,000円以上する公演が多いですけど、それだと若者はなかなか演劇に出会えないんじゃないかなって。映像でも良いけれど、やっぱり舞台で観ていただきたいですし、本多劇場などはわりと近い距離で観ることができます。若い方が観に行こうって興味を持ってもらえる値段が3,800円かなって。とりあえず劇場に足を運んで生で観て欲しいですね。

ウーマンリブvol.14『もうがまんできない』ホームページ
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筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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