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コロナ禍は人々の感度を増幅させ、生きづらさを抱える人を知る装置

香月真理子 フリーランスライター

役に立つ人々が称賛される中で

 15年以上前から一緒に暮らしているパートナーは、いつもは会社勤務だが、3月下旬からテレワークに切り替わった。人から送られてくる原稿に手を入れる編集の仕事は途切れることがなかった。私は、いつもの仕事場であるリビングを彼に明け渡すと、奥の狭い寝室に閉じこもった。扉を閉めても、カタカタとキーボードを叩く音は聞こえてくる。その音が、何もしていない私を責め立てた。

 テレビをつければ、各局が競い合うように、医療関係者に感謝することと、オンラインで仲間とつながり、明るく前向きに過ごすことを強要してくる。連帯と明るさは私が最も苦手とするものだった。

 ライター業だけでは食べていけない私は、昨年(2019)11月まで八百屋でパートをしていた。八百屋が入っているスーパーごと潰れて解雇となったが、今でも店が続いていれば、感染に怯えながら店先に立っていたことだろう。

 そういうスーパーの店員にも、医療関係者にも、宅配の配達員にも感謝すべきことはわかっている。だが、そう強要されればされるほど、誰の役にも立てていない自分の不甲斐なさばかりが目の前に突きつけられて、胸が苦しくなった。

 以前から興味があった水引アートにも挑戦したが、持ち前の不器用さも手伝って、誰かにプレゼントできるほどうまくはできなかった。役に立つ人々が称賛される、このプレッシャーの中で、誰の役にも立たないことに時間を費やせるほどの図太さが私にはなかった。

 家にいることが苦しくてたまらなくなった私は近所の公園を走り回ったが、利用者は日ごとに増え、公園の利用は1時間に制限された。隣の区の公園にも足を延ばしてみたが同じ状況だったので、近所の公園の外側を走った。せめて、どこかの木陰で読書でもできないかと本を持ち出したが、同じ考えの人々でベンチは埋まっていた。

 公園の外周にも飽き、住宅街を走っていると、「ジョギングでウイルスをまき散らすな」という電柱の貼り紙が目に飛び込んできて、

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筆者

香月真理子

香月真理子(かつき・まりこ) フリーランスライター

1975年、福岡県生まれ。西南学院大学神学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、2005年からフリーランスライターに。著書に『欲望のゆくえ――子どもを性の対象とする人たち』(朝日新聞出版)』。現在、『ビッグイシュー』に執筆中。新型コロナ自粛中に応募した短編小説『獄中結婚の女』が山新文学賞(4月分)準入選に。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです