丸山あかね(まるやま・あかね) ライター
1963年、東京生まれ。玉川学園女子短期大学卒業。離婚を機にフリーライターとなる。男性誌、女性誌を問わず、人物インタビュー、ルポ、映画評、書評、エッセイ、本の構成など幅広い分野で執筆している。著書に『江原啓之への質問状』(徳間書店・共著)、『耳と文章力』(講談社)など
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
『小説伊勢物語 業平』を上梓した髙樹のぶ子と万葉学者上野誠の含蓄対談
上野 「あとがき」まで入れて458ページ。大作ですね。あまりの面白さにページをめくる手が止まらず、二晩で読んでしまいました。たちまち読者を平安時代の後宮に迷い込ませてしまう。そういう不思議な力のある小説だと思います。
髙樹 ありがとうございます。
上野 それにしても発売のタイミングが……。
髙樹 そうなんです! 新型コロナウイルス感染拡大の影響で予定通りに出版できるのかとヒヤヒヤしました。「世の中、何が起こるかわからない」と口では言っていたけれど、こういうことが起こるとはねぇ。それこそ「事実は小説より奇なり」を地でいくような展開だなと。
上野 SFかホラーかみたいなねぇ。でも実のところ僕は、『小説伊勢物語 業平』という作品にふさわしいタイミングでの発売になったなという気がしているんです。
これは多くの人が言っていることですが、新型コロナウイルスはパンデミック後にパラダイムシフトをもたらすと。実際、人々の様々なことに対する価値観がガラリと変わりましたよね。闇雲に進化することに疑問を抱き、立ち止まるというか、もっと言えば温故知新に目覚めた人が少なからずいるはずで。
髙樹 それはそうでしょうね。たとえばメールは確かに便利ですが、すぐに返事が来ないと不安になってしまう現代人は不幸。待つというのが一つの愛のカタチなのに、待てないというのは心が貧しいのです。電話のなかった時代は手紙を認(したた)めていたのだから、相手の気持ちを確認するまでにタイムラグが生じる。でも、だからこそ情感を育むことができたわけで。業平の時代の男女は、歌のやりとりを通じて自分の中にある想いを熟成させていたのだろうなと思います。
上野 特に業平は歌詠みの名手だった。そりゃあモテますよね。平安時代は相手の顔を見ないで歌のやりとりで恋に突入するわけで。しかも皇族の血を引くサラブレッドで、会ってみたら超イケメンでと、見事な男子なんですから。
髙樹 「通い婚」という当時の文化が「恋」と相性がいいということもあるのです。男性はあちこちの女性を訪ねて伴寝し、夜明け前に退出するのが慣わしでしたが、男女の仲は別れ際に「もっと一緒にいたい」と情念の余燼がくすぶっているくらいが丁度いい。それでいて当時は、女性が男性に対して所有欲を抱くという発想そのものがなかったのではないかなと。
上野 束縛がないって最高だなぁ(笑)。なにより諍いのない関係性というのがいいですね。
髙樹 「恋は時間には勝てない」というのが持論ですが、
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