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日常を見直す。精神の「インフラ」である劇場から

コロナ禍での公演中止を超えて

白井晃 演出家・俳優・KAAT神奈川芸術劇場芸術監督

舞台芸術の「同時性」が一気に壊れた

拡大KAAT神奈川芸術劇場で2019年4月に上演された『春のめざめ』。思春期の少年少女の心身の揺れを描いた19世紀ドイツの戯曲が白井晃演出によって、みずみずしい現代の舞台になった=宮川舞子撮影

 劇場で観る作品に共感したり、感動したり、笑ったり、泣いたり、たとえ、その作品に嫌悪を抱いたとしても、自分が時間を作って劇場まで足を運んで獲得した感覚は、PCの画面の中で感じるものとは大きく違うと思います。

 「この表現に感動した」「この表現は嫌いであった」どちらでも良いのです。それを積み重ねることで、人々は自分の感性を作ることができ、自己を形成することができるのだと思っています。

 また、表現者においても同じことが言えます。

 どんなに構想を練り、リハーサルを重ねたとしも、観客の前に立ち、その呼吸を感じることで自分の表現を高めることができます。俳優も、ダンサーも音楽家も、全ての表現者がそうだと思います。好意的な観客の空気ばかりでなく、批判的な空気を感じたとしても、客観的な観客の視線を糧に、表現は一気に膨らみ上昇します。

 その舞台芸術の最大の特徴である「同時性」が一気に壊滅状態に陥りました。いや、全滅と言っても良いと思います。思い出すのは、東日本大震災の折に、津波によって東北の多くの市町村が壊滅状態に陥った時のことです。あっという間に襲ってきた津波によって、人々は、ただなす術もなく高台に逃げるしかありませんでした。今、私たちの置かれているのは、まさにこの状態です。見えない津波によって劇場は閉じられ、人々が集まることが禁じられました。上演中の全ての公演はストップし、初日に向けてリハーサルをしていた作品も中断を余儀なくされました。

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筆者

白井晃

白井晃(しらい・あきら) 演出家・俳優・KAAT神奈川芸術劇場芸術監督

1957年生まれ。早稲田大学卒業後、1983年から2002年まで「遊◎機械/全自動シアター」を主宰。ストレートプレイからミュージカル、オペラまで幅広い舞台の演出を手掛け、俳優としても活躍する。2014年KAAT神奈川芸術劇場のアーティスティック・スーパーバイザー(芸術参与)に就き、16年芸術監督に。国内外の多彩な作品に取り組む意欲的なプログラムで注目されている。読売演劇大賞優秀演出家賞を2度受けたほか、05年『偶然の音楽』で湯浅芳子賞(脚本部門)、18年『バリーターク』で小田島雄志・翻訳戯曲賞など、受賞歴も多い。

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