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コロナ後は「創造経済」の時代、鍵握る芸術文化への支援

社会も教育も「クリエーティビティー」重視に舵を切れ

野田邦弘 横浜市立大学大学院都市社会文化研究科客員教授(創造都市論)

芸術文化への深刻な打撃

長期の休業を余儀なくされているライブハウスの経営者やDJらが助成を訴える活動「#SaveOurSpace」のオンライン会見

 新型コロナウイルスの感染拡大は世界を覆い尽くし、日本にも未曽有の被害と社会的混乱をもたらしている。本稿では、コロナ後の社会がどのような不可逆的な変化に直面するか、それをふまえてどのようなポストコロナ社会をわれわれは構想すべきかについて「創造経済」をキーワードに考察する。

 2020年4月7日に出された緊急事態宣言以降、経済活動の停止・縮小が始まった。

 いち早く影響を受けたのは、芸術文化・スポーツなどイベントの分野、宿泊業・小売業など観光関連産業、飲食店などである。

 そのなかで特に芸術文化活動に焦点を絞って見ていく。

 芸術文化活動を担う主体には、劇場・音楽ホール・博物館(美術館)・映画館などの施設、プロダクション(制作会社)、劇団・楽団等芸術団体、個人アーティストなどがあるが、公立施設を除けば、ほとんどが小企業か個人で経営基盤が脆弱なものが多く、資金繰りが滞ると即経営破綻の危機に直面する。政府による支援の動きは遅く、迅速で手厚いドイツやフランスなどと比べて根強い批判がある。

 福岡市による文化・芸術関係者への調査(有効回答数個人645件、事業所61件)では、「公演、展示、イベント等の中止・延期がある」と回答したのは個人92%、事業所100%。それによる「収入の損失額」は平均で個人44万円、事業所632万円となっており、「損失分への支援」を求める声が多い。

 このように経済循環の急激な縮小で真っ先に打撃をこうむる芸術文化活動は、小規模・零細、非営利、自己裁量型、プロジェクト型(非正規)、公的資金への依存、という脆弱な経済基盤しか持っていない。

 しかし、芸術文化を担う人達は、後述するようにポストコロナ時代にはっきりと輪郭をあらわす創造経済の中心に位置する重要なキープレーヤーである。そのため、活動の継続を支援するのは単に文化政策としてだけではなく経済政策としても必要である。

衰退した日本経済、向かうべき道は

 創造経済とはどのようなものか述べる前に、その登場の背景を理解するため歴史のおさらいをしておきたい。

 過去30年間、日本の経済は衰退の一途をたどってきた。平成の30年間で日本企業がどのように世界の舞台から消えていったかを企業の時価総額ベースで見てみよう。

 1989年には世界のトップ10企業のうち日本企業が7社を占めていた。1位はNTT(1638.6億ドル)、日本興業、住友、富士、第一勧業の各銀行が2~5位に並び、6位米国IBMを挟んで7位三菱銀行、9位東京電力だった。

 しかし、2018年はトップ10に1社も入らず、日本で最上位のトヨタ自動車は35位だった(出典:ダイヤモンドオンライン)。

 注目すべきは、2018年のトップ10のうち、1位のアップル(9409.5億ドル)、2位アマゾン・ドット・コムをはじめ、7社がIT企業だということである。2020年中にGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)にマイクロソフトを加えた5社の時価総額合計が、日本の東証一部上場企業約2200社合計を抜くことが確実視されている。

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