2020年05月28日
緊急事態宣言が全国で解除された直後に、この原稿を書いている。解除記念として、我が「ステイホーム」の日々を振り返るとする。
生活はさほど変わらなかった。会社員をやめて3年、自宅で文章を書いてきたから4月7日以降も同じようなものだ。文章を発表する「メディア」という空間は、劇場やライブハウスなどとは違い閉鎖されるものではない。だから仕事は地味に続けられている。だが、ずっといじけていた。
原因は、Facebookだ。新型コロナウイルス関連のニュースをチェックしたくてスマホを触る頻度が上がり、ついでにFacebookに立ち寄ることが増えた。そして長々読んでしまう。Twitterと違い、直接の知り合いがほとんどの世界。よそさまのことが気になってしょうがなくなった。
会社員の方々は、リモートワークを報告していた。不慣れだという記述はすぐに減り、楽しそうな書き込みが増えた。フリーランスの人たちも戸惑いは最初だけ、すぐに「ズーム会議を○本、こなした」といった活動報告が並ぶようになった。
読むたび、落ち込んだ。リモートワークでもなく、ズーム会議にもよばれない自分はダメだと思った。Facebookは「リア充」アピールの場だと言い聞かせても、いじける心が止まらない。行きつけの居酒屋のテイクアウトメニューを見る以外は「Facebook禁止」と己に課したが、つい見てしまう。
経済危機を伝えるニュースの増加と共に、いじけ心は加速した。先行きが不安になり、リア充の人をうらやむ気持ちが増した。そんな自分が疎ましかった。
以上、我がステイホーム黒歴史。で、ここからが、韓流ドラマ「愛の不時着」の話。我が黒歴史を救ってくれた。そして、コロナ禍だったからこそ、一層染みるドラマだった。そのことを書いていく。
Netflixで配信されている「愛の不時着」が人気だということは、ご存じの方も多いだろう。韓国のケーブルテレビtvNで2019年12月から20年2月まで放送され、最終回の視聴率(21.7%)は同局ドラマ最高を記録。2月後半からNetflixで配信され、以来「今日の総合トップ10(日本)」に入り続け、昨今では1位か2位が定位置になっている。
これもご存じの方が多いと思うが、韓流ドラマは長い。1話が1時間をたっぷり超え、16話が定番。見るには覚悟がいる。それでも見ようと決めたのは、Facebookのリア充地獄(個人の感想です)から決別したかったからだ。Facebook以外のことに、気をとられたい。切実にそう思った。読書する集中力はないと自覚していた。テレビは気楽だが、ドラマは再放送ばかりだし、バラエティー番組はリモート出演者が「リア充」に見えて嫌だった。そこで思い出したのが、人気だと噂の「愛の不時着」だった。
1話が80分前後で16話。全部見ると、21時間以上かかる。だが、見始めた。初日に1話、2日目に2話。残りは3日で見た。文字通り朝から晩までパソコンにかじりつき、昨今よく聞く「沼」という言葉を理解した。抜けられない、むしろ沈んでいたい。徹夜で見たい心をギリギリ抑えた。「ネトゲ廃人」なる言葉も遠い国のものではなくなり、Facebookを見る暇もなくなった。
あら筋を紹介する。韓国の財閥令嬢で、自らのファッションブランドを成功させている経営者ユン・セリ(ソン・イェジン)がパラグライダーの事故で北朝鮮に不時着、北朝鮮の中隊長リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)に発見される。彼は彼女を当局に突き出すのでなく、自ら守り、南に帰すという道を選ぶ。いつしか愛し合う2人にとって、韓国への帰還というゴールは別れを意味することになる。そんな物語だ。
最初から結ばれない関係にある2人の主人公。その悲恋感が「冬のソナタ」以来の韓流ドラマの王道で、だから韓流ファンが夢中になっている。そう人気を分析する記事もあった。韓流ドラマは「宮廷女官チャングムの誓い」しか見たことがないが、「冬ソナブーム」をリアルタイムで知る者として、その感覚はなんとなくわかった。
なぜ従来の韓流ファン以外もハマるのか、
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