コロナ禍で岐路に立つアニメーション(上) リモートとアフレコの課題
制作スタッフへの緊急アンケートの結果から
叶精二 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京造形大学・東京工学院講師
突然の在宅作業移行による混乱
コロナ禍に突入して以降も、多くのスタジオでアニメーション作品の制作は休むことなく継続していた。それでも作品の放送・配信が延期となったのは、おそらく作業の遅延のためだ。
もとより、アニメーション制作は各セクションの複雑な連携によって成立する。予算こそ少ないが、手間暇と労働時間の総量は実写映像の比ではない。通常2Dアニメーションの制作工程は、シーンの設計(「絵コンテ」「レイアウト」)、キーとなるポーズを描く「原画」、その間を描いて清書して完成させる「動画」、背景を描く「美術」、動画を着色する「仕上げ」、全素材を集めた「撮影」という流れで進む。

アニメーターが使用する動画机の例。棚にはカットごとに動画の束を収納、机は下から透かして描けるようになっている=「新潟が生んだジブリの動画家 近藤喜文展」(2014年、新潟県立万代島美術館)展示品より 撮影・著者
日本では「レイアウト」「原画」「動画」といった作画の起点・中心的作業は、未だに紙と鉛筆によるアナログの手描きが主流だ。作画スタジオには下からライトで透かして画を描けるトレース台付の「動画机」がぎっしりと並べられ、アニメーターは時に打ち合わせを挟みながら長時間描き続ける。典型的な「3密(密閉、密集、密接)」の職場環境であるため、多くのスタジオが3月末頃から閉鎖となり、作画は各個の在宅作業に切り替わった。
しかし、とりまとめの作業は全てリモートというわけにもいかず、少人数の出社は継続せざるを得ない状況が続いている。また、自宅に同様の環境を整えられない、素材や動画用紙が不足しているなどの理由で出社せざるを得ないスタッフも多かった。仕上がった画をまとめた「カット袋」を各家から回収する運搬業務も煩雑化したようだ。
アンケートでも以下のような証言があった。
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