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【ヅカナビ】月組『出島宇宙戦争』

「ステイホーム」ならぬ「ステイジェイル」なカゲヤスの新しさ

中本千晶 演劇ジャーナリスト

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 2月末の東京公演が千秋楽を待たずに中止となってしまった月組『出島小宇宙戦争』をCS放送タカラヅカ・スカイ・ステージがいち早く放映してくれた。改めて見て、その面白さに衝撃を受けている。「今さら何を言っているのだ?」と言われるだろうが、じつは私、生の舞台で観たときにはそう感じられなかったのだ。

 思い起こせば舞台で観たのが2月28日。前々日の26日に新型コロナウイルスの感染予防のため初めて政府から「自粛要請」があった。同日夜にいち早く公演中止を決定した劇団四季を皮切りに、翌27日には各劇場、主催団体が次々と公演中止を発表。粘り腰だったタカラヅカも夕刻には「落城」、29日から公演中止となった。この決定にすっかり意気消沈した翌日の公演だった。

 ラストチャンスに観られたわけだから喜んでいいはずなのに、ショックのあまり心が荒んでいたのだろう。あの頃は新型コロナに関してまだはっきりしないことが多く、そんな中での「自粛」の「要請」は納得のいくものではなかった。やはり観劇するときは、自分自身の心身のコンディションが整っていなければ、受け取れるものも受け取れない。心置きなく楽しめる日が一日も早く戻ってきて欲しいと改めて思う。

今だから見えてきた、カゲヤスの魅力

 だが、今この作品が面白く感じられた理由は、どうやらそれだけでもなさそうだ。主人公カゲヤス(鳳月杏)は父の意向で座敷牢にて育てられ、さらに己の罪を償うべく牢に閉じ込められたまま生きている。つまり「ステイホーム」ならぬ「ステイジェイル」で真理を探求する男である。私自身もステイホームの意外な効用を知った今、そんなカゲヤスが新しいヒーロー像として私の前に立ち現れたのだ。

 この世の雑音からあえて耳を塞ぐことで見えてくるものもある。こうして真理を探求する姿勢は、地図を「ごあいさつにだけ使え」と言った師匠タダタカ(光月るう)の理想を受け継ぐものであった。そして、タダタカと、その志を受け継ぐカゲヤスは、カグヤ(海乃美月)の屈託ない笑顔の輝きの中に「この世の真理」の輝きを見たのではないか。そう考えると、二人がともにカグヤに心惹かれたのもわかる気がする。

 鳳月演じるカゲヤスは、ちょっと斜に構えた雰囲気から色気を漂わせ、すべてを悟った表情の奥底に少年のような繊細な不安定さをのぞかせる。アッシュグレーの髪色もこのキャラクターには大正解だ。また、海乃演じるカグヤは現世に舞い降りてもなお神秘的な輝きを失わない。この作品はフィナーレの素晴らしさにも定評があるが、とりわけ冒頭の娘役群舞を率いる海乃はさながら月から舞い降りたかぐや姫を思い起こさせた。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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