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インターネット上の誹謗中傷で被害者ができること――法的対応策の課題

中澤佑一 弁護士(埼玉弁護士会)

削除と発信者情報開示には2回の裁判が必要

 では、実効性のある改正とは何をすべきか。まず、現状の発信者情報開示の仕組みについて説明し、その問題点を解説しよう。なお、その請求が認められるための権利侵害面の要件が厳しいという批判もあるが、表現の自由との兼ね合いから権利侵害の判断においてはある程度の厳しさは必要であり、最大の問題は権利侵害の要件は満たすのに手続きがうまくいかないという点にあることを強調したい。

Photoroyalty/Shutterstock.com拡大SNSでの誹謗中傷に対して、被害者が法的にできることは何か Photoroyalty/Shutterstock.com

 理解の助けのために、Twitterで匿名の誹謗中傷を受け、この攻撃者を特定したいという事例を想定して説明する。なお、誹謗中傷というのは法令上の用語ではなく発信者情報開示請求権の行使のためには、法律上の権利・利益の侵害が必要であるため、名誉権が侵害されているケースを想定しよう。

 まず、被害者が最初にすべきなのは、具体的な権利侵害記事を特定することである。多数の誹謗中傷が来ているケースでも、発信者情報開示請求や削除請求は個々の記事について行うことが求められる。そこで、被害者にとってはつらいことだが、自身に対する攻撃のうち、法的対処の対象とする記事をピックアップしてゆかなければならない。

 その対象記事が決まったら、Twitterに対して削除と発信者情報開示請求を行う。これは、Twitterが用意しているフォームから行ってもよいが、基本的には任意に応じてもらえる可能性は低く、Twitterを相手とする裁判を申し立てることになる。

 なお、Twitter以外のサイトでの誹謗中傷についても、基本的には前述のプロバイダ責任制限法の原則もあり任意の対応は難しい。特に発信者情報開示を任意に行うサイト運営者は数えるほどしかないといってよく、加害者を調査しようとする場合には、ほぼ例外なく裁判を申し立てることになる。

 このTwitterなどサイト運営者相手の裁判は、「仮処分」という手続きをとる。これは通常の裁判(訴訟)よりも、迅速な手続きではあるが、海外事業者への裁判書類の送付などもあり、権利侵害が固いケースでうまくいっても1カ月程度、双方の主張を戦わせる場合には3カ月以上を要することもある。なお、削除や情報開示の裁判の場合、相手となるサイト運営者やプロバイダの多くは発信者の権利擁護のために厳しく争ってくる。そのため被害者側の申し立てのみで一方的に請求が認められるということではない。

 仮処分で被害者側の主張が裁判所にも認められれば、対象記事はTwitterにより削除され、その発信者情報が開示される。この情報は、サイト側が保有している各種情報のうち、プロバイダ責任制限法上で開示対象として認められたものが開示されることになる。Twitterの場合、アカウントへのログインに用いられたIPアドレスとログイン日時が開示されるのが現在の運用である。

 Twitterから開示されたら、その情報を分析して通信に用いられたインターネットサービスプロバイダを特定する。このプロバイダ(NTTドコモやニフティなど)は、発信者と直接契約を締結して、住所や氏名を把握しているため、第2回目の開示請求として、プロバイダに対して発信者の住所氏名等の開示請求を行う。

 しかし、プロバイダは

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筆者

中澤佑一

中澤佑一(なかざわ・ゆういち) 弁護士(埼玉弁護士会)

1983年生まれ。上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2011年、戸田総合法律事務所を設立(代表弁護士)。主要な取扱分野は、ネット風評被害対策(削除請求・発信者情報開示請求)、知的財産法、危機管理・広報、ITビジネス法務。著書に『インターネットにおける誹謗中傷 法的対策マニュアル(第3版)』(中央経済社)など。